(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
「預貯金がなくともローンを利用すればマイホームは購入できる」と思っていませんか。
たしかに昨今は物件価格いっぱいローンを組むことができます。
しかし住宅購入時には住宅ローンの事務手数料や保証料などがかかりますので、やっぱり現金も欲しいところです。
ただもしも、まったく現金がない場合には、諸経費も合わせて借りられるケースがあります。借入額が物件価格を超えるときの、返済への影響やリスクについてご紹介します。
オーバーローンとは?どんな時に利用するの?
オーバーローンとは、住宅ローンの借り入れにおいて、物件価格以上の額を借りることです。
物件価格以上の額は借りられない、と思っている人も多いと思います。原則的にはその通りで、物件価格が上限と考えていいでしょう。
しかし、住宅購入時にかかるさまざまな諸経費の中には、建物と密接な関係にある費用が多く含まれています。
それら物件価格ではない諸経費の一部を、住宅ローンに含めて融資してくれる金融機関があります。
そういった借入方法をするならば「オーバーローン」を組むことになります。なお、物件価格目一杯借りることは「フルローン」といい、オーバーローンとは異なります。
諸経費として住宅ローン額に計上できるのはどんな費用か
住宅ローンの範囲がどこまでかは、金融機関の判断になります。
家の購入資金以外は一切認めないとする金融機関ももちろんあります。
比較的ネット銀行は融資範囲に融通が利くようです。そこでネット銀行大手2社の融資範囲をご紹介します。
【新規借入における住宅ローンの範囲】
住信SBIネット銀行
・登記費用(抵当権設定・抹消等にかかわる費用)
※登録免許税等税金、司法書士報酬、消費税、その他雑費を含む
・火災保険料、地震保険料
楽天銀行
・登記費用、楽天銀行の融資事務手数料、融資に関する金銭消費貸借契約書に貼付する印紙代
・不動産仲介手数料、火災保険料
・修繕積立一時金、水道負担金、引越費用等の住宅取得に関する諸費用
上記2行のような費用を住宅ローンに組み込むことができれば、借入額はずいぶん変わってきそうです。
特に楽天銀行は修繕積立金一時金や引越費用など広範囲に広がります。
融資の事務手数料だけをとっても、楽天銀行の融資手数料は一律324,000円(変動金利手数料)です。
これだけの金額を預貯金から支出するのか、借入できるのかは大きな違いです。資金繰りが厳しい人にとっては大きなメリットでしょう。
住宅ローンの借り換えではオーバーローンが一般的?
オーバーローンは新規購入よりも住宅ローンの「借り換え」や「住み替えローン」のほうが一般的です。
借り換えの際は、多少の金利メリットがあっても借り換え手数料がネックになってしまいがいです。
そのため手数料も含めて貸出し、預貯金を減らず借り換えができるようにする金融機関が多いのです。
利用のハードルを下げることで借り換え需要の掘り起こしを狙っているのですね。
違法なオーバーローンもある?
物件の購入代金以外の費用は住宅ローンの費用として計上できない金融機関もあることは既述の通りです。
もしも、「マイホームの価格を水増しして少し多く借りられないかな」などと思っている人がいたら、その考えは捨ててください。
そんなことをしてローンが通ったとしても、後に住宅ローン契約の「契約違反」として契約解除を求められるかもしれません。
契約を解除されたら、融資金をすぐに一括返済しなければならなくなります。
オーバーローンのリスクは
預貯金を減らしたくない人や、そもそも預貯金がない人にとって諸経費まで含めて借入できるオーバーローンは大きな魅力でしょう。
しかしオーバーローンにはリスクもあります。
リスク1 借入額が大きくなる分、審査が厳しくなる
金融機関は回収できる分しか融資をしません。
借入額が大きければ返済額も増えるので、審査も厳しくなります。
いくら貸出し範囲の規定が大きくても、実際に融資が通らなければ申込者にとっては絵に描いた餅でしょう。
なお、マイホームを購入予定で話し合いを進めていたにも関わらず、審査が通らず購入を断念する場合、違約金は発生するのでしょうか?
住宅の売買契約には通常「住宅ローン条項(住宅ローン特約)」が織り込まれています。
これは「住宅ローンの借り入れができなかったときは契約解除ができる」との特約であり、違約金は発生しないのが一般的です。
ただし、確実に特約が使えるとは限りません。例えば「オーバーローンは無理だったけれど、物件価格目いっぱいのフルローンなら審査が通る」といった場合は条件に抵触するか微妙なところです。
オーバーローンありきで「現金はないけれど借りれば大丈夫」などと考えていると、マイホームの購入計画が根本からくるってしまうことにもなりかねません。
オーバーローンを狙うにせよ審査を考慮すると、多少の自己資金は用意しておくべきです。
リスク2 返済の負担が大きくなる
当然ですが、融資を受ければ利子をつけて返済しなければなりません。
借入額が大きいほど返済の負担も大きくなります。また、利子である「金利」もオーバーローンは高くなる恐れがあります。
借入額が物件価格の9割を下回ると金利を優遇させる金融機関は意外と多いからです。
全期間固定金利のフラット35でも、融資額が9割以下かどうかで貸出金に差を設けています。
【参考 フラット35 2019年1月借入金利(新機構団信付き)】
融資率 | 金利の範囲 | 最も多い金利 |
9割以下 | 年1.330%~年1.960% | 年1.330% |
9割超 | 年1.770%~年2.400% | 年1.770% |
※借入期間:21年以上35年以下
リスク3 家計リスクが高い
預貯金があっても温存しておきたいのでオーバーローンを選択する人ならまだいいのですが、預貯金ゼロだから必然的にオーバーローンしかない世帯は注意したいです。
住宅ローンを組めば、今後借入金の返済が始まります。
預貯金ゼロの、いわば「貯金偏差値が低い状態」で借金を返していくことになるのですから、返済できるかどうかシビアに考えていかなければいけません。
オーバーローンにするよりも、物件価格を抑えたほうが現実的
以上のリスクをかんがみると、オーバーローンはあくまでも、「預貯金があるけれども、借りられるなら借りたい」といった人に向いていることがわかります。
ほかに方法がなく、「オーバーローンでないと家が買えない」人には不向き、ともいえます。
オーバーローンでないとその家が買えない場合は、物件価格を抑えることを検討してみましょう。
頭金はいくらが理想?
オーバーローンを回避する方法としては、物件価格を抑えるだけでなく、自己資金を増やす方法もあります。
頭金はどのくらいあればいいのでしょうか。以前は頭金の額は2~3割が理想とされていました。
そもそも貸出上限を物件価格の8~9割程度に抑える金融機関も多く。少なくとも2割程度の頭金がないと、マイホームの購入が不可能だったからです。
しかし今ではほとんどの金融機関が物件価格目いっぱい、もしくは諸経費を含めたオーバーローンに対応しています。
預貯金ゼロなら物件価格の5%を目指してみよう
注意したいのが、頭金を貯めている間に購入に適した時期を逃してしまう恐れがある点です。
一般的にマイホーム購入のベストタイミングは子供の小学校就学前、もしくは就学から数年以内です。
それ以上子供が大きくなると、子供の転校が難しかったり、教育費の増加が大きく購入のハードルがあがったりするからです。
また、金利の低さも追い風です。金利が高いと、金利負担も大きいですが、現在は低金利ですので、借入額が多少大きくなっても総返済額への影響はそう大きくありません。
先ほども触れたように、借入額が物件価格の1割以下ならば金利が優遇される可能性があります。
その点から考えると、頭金の理想は1割超です。しかしそこまで貯めるのにあまり時間がかかるようなら1割にこだわりすぎる必要はないでしょう。
「オーバーローンにならないよう、諸経費分はしっかり貯める」と意識してみてはどうでしょう。
諸経費の目安は物件価格の5%(新築物件の場合)ですので、貯金初心者でも目指しやすいです。
オーバーローンは最後の手段と考えたい
預貯金を温存できるオーバーローンはメリットもありますが、「大きく借りる」ことによるリスクは決して少なくありません。
基本的にはおすすめできませんが、もしも利用したい場合は、リスクをとっても大丈夫かどうか、しっかり見極めたうえで利用しましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所