金融機関が住宅ローンの融資金額を決定する際には、返済負担率(その人の税込年収に対する住宅ローンの年間返済額の割合)を一つの判断基準としています。
たとえば、年収500万円の人の年間返済額が125万円の場合、返済負担率は、
125万円 ÷ 500万円 = 0.25
となり、返済負担率は25%という計算になります。
各金融機関でこの基準は異なりますが、最大で年収負担を30〜35%を融資の上限としているところが多く、一般的に返済負担率は20〜25%以内に収めるのが望ましいとされています。
年収が低く、適正な返済負担率に満たない場合には希望している金額が借りられない場合があります。
その際にいくつの選択肢がありますのでご紹介します。
収入合算制度
まず、利用を検討してみたいのが、夫だけではなく妻の収入も考える『収入合算制度』です。
配偶者や、親、子などの一定の条件を満たした、近親者の収入を合算して算定できる制度です。対象は以下の通りです。
- 申込本人の配偶者、父母、子供などの直系親族、婚約者、内縁関係
- 収入を証明する公的証明書を提出できる
- ローンの連帯責務者、または連帯保証人になれる年齢は70歳未満
『収入合算制度』を利用する場合、大きく『連帯責務』と『連帯保証』の2通りのパターンがあります。
連帯責務
ローン契約者は夫と妻の両者になります。夫婦の収入を合算して借り入れ、妻は連帯債務者となりますが、返済は夫がまとめて行います。
妻は返済義務を負う事になりますが、毎月返済をする必要はありません。
融資可能額については夫の収入と妻の収入の合計額を審査し決定します。
収入合算(連帯債務)は、基本的に年収の高い方の契約者をメインの債務者とし、年収の少ない方の契約者は年収の半分程度を融資対象にするといった考え方で融資されることが多いようです。
妻は連帯債務者になれば、ローンを実際には払っていなくても、住宅ローン減税の恩恵を受けられる事になります。(連帯債務を認めているのは、原則フラット35だけです)
連帯保証
契約者は夫で、夫の収入と妻の収入の合計で融資を受けますが、返済するのは夫のみです。妻は夫が返済できなくなった時だけ、返済の義務を負います。
つまり連帯保証人になる形で契約を行います。この場合、妻は住宅ローン減税を受ける権利はありません。
収入合算(連帯保証)は、実際にローンを組むのは、夫(あるいは妻)だけで、もう一方の人はローンの返済が滞った時だけ返済義務を負うという形になります。
子供が生まれたり等で将来にわたって働き続けるか分からない場合には連帯債務より、連帯保証の選択が無難と言えます。
ペアローン
夫婦共働きであれば、夫婦それぞれの名義でローンを借り、それぞれが返済をする『ペアローン』のという選択肢もあります。
ペアローンは夫婦それぞれで借り入れをし、返済も別々にする方法なので、夫婦それぞれの収入を100%加味してもらい、融資額を最大限にすることができるのがメリットです。
夫婦どちらも住宅ローン減税の恩恵を受けられるほか、夫婦とも団体信用生命保険に加入するため、夫婦どちらかに万が一のことがあった場合でも、その分の住宅ローン返済は保険金で完済されることになります。
ただし、どちらかが離職した場合、1人で2人分のローン返済を肩代わりして返済しなければならなくなる上に、贈与税の課税対象になる可能性もあるというデメリットもありますので、注意が必要となります。
ペアローンは1人で借りるよりも、多くの額のローンを組む事ができますが、基本的には夫婦ともローン完済まで働き続けられる目処があるか、夫婦でローンを組んでも何かあった場合には一人でも返済していける額しか融資を受けないかの、どちらかの場合にしか利用しない方が良いと思います。
内容 | どんな人が向いているか | |
---|---|---|
ペアローン | 夫婦それぞれの名義でローンを借り、夫と妻、それぞれがローンを返済する。 | 夫婦とも、正社員・公務員など。妻が管理職、専門職等、一生働き続ける強い意志を持っている場合。 |
収入合算(連帯債務) | ローン契約者は夫と妻で、夫婦の収入の合計で借り、夫が2人分まとめて返済する。 | 夫婦とも正社員・公務員など。ただし、妻が将来にわたって働き続けるか決めかねている場合には注意が必要。 |
収入合算(連帯保障) | ローン契約者は夫で、夫の収入と妻の収入の合計で借り、夫が返済する。 | 片方が正社員でなく、契約社員、派遣、パートなどの場合。 |
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妻のパート収入を合算することは可能か?
夫が正社員で、妻がパートという家庭は非常に多いと思いますが、奥さまがパートだったとしても収入合算可能な金融機関はあります。
正社員に比べて審査は厳しくなりがちですが、働き方の多様化に伴い正社員以外にも融資をする銀行が増えてきています。
条件は金融機関によりさまざまなので、ぜひ借り入れを希望する金融機関で相談をしてみることをおすすめします。
実際に楽天銀行の住宅ローンは、継続した収入があれば、パート、派遣社員の収入も合算可能となっています。
少しでも低金利のローンを探す
借りられる額を増やすためには、0.1%までトコトンこだわって、金利が低いローンを探すことが重要です。
毎月返済額と返済期間が同じ条件の場合では、一般的に金利が低ければ低いほど利息の負担が軽くなるため、その分だけ借り入れできる額も増えます。
また、選ぶ金利タイプでも大きな差が出ます。金利タイプには 『全期間固定金利』、『変動金利』、『固定期間選択型』と大きくわけて3種類がありますが、低金利時代の現在、変動金利の金利が最も安くなっています。
変動金利や固定期間選択型は、返済が終わるまで適用金利や返済額が変動するので、安心して借り入れできる、といった事はありませんが、将来的な借り換え等(借り換えの諸経費は掛かります)も視野に入れ一定期間限定とした上で、0.1%でも安い金利にこだわり借りるのは可能性を広げる事になります。
頭金を多く用意する
頭金(自己資金)を多く用意するということは、そのぶん金融機関から借入れする金額が少なくて済みます。
借入額が少なくなるということは、返済負担率を下げる事になります。
冒頭にも説明しましたが、各金融機関は返済負担率を融資の目安にしていますので、返済負担率を下げることは審査に通る可能性が上がったり、借入れ額を増やすことができるようになります。
さらに、住宅支援機構のフラット35では、購入する物件価格の10%以上の頭金を用意できれば金利が優遇される、という措置がとられていますので、頭金(自己資金)はなるべく多く用意したほうが良いでしょう。
頭金が少ない場合には
■親に頼る
親から住宅資金贈与を受ける、親から資金を借りる、親から資金を出してもらい、その持分割合で共有名義にする。等の方法があります。
贈与を受ける場合には贈与税や、借りる場合には、金銭消費賃借契約書を作成する等、税務上の注意が必要です。
■社内融資を利用する
勤務先に退職金と相殺するタイプの社内融資がある人は、このお金を頭金にあてることも可能です。
ただし、退職金が減ってしまったり、転職するときに一括返済が必要になったり、金融機関を利用 するタイプは住宅ローンの借入可能額に影響してしまうため、会社への確認が必要です。
■貯金する
物件引渡し日(ローンの契約日)まで切り詰めて貯める、ボーナスから貯める、生命保険料など家計の固定費を見直す。等の対応で少しでも頭金を捻出する。
預金が増えた分だけ借入額が減るのは問題ありません(逆に借入額が増える場合は、金融機関の再審査が必要になることがありますので注意してください)。
■物件価格を下げる
物件がマンションの場合、各住戸の価格は広さや間取りはもちろん、階数や、日当たり等によって、数百万円の違いがあります。
購入をする上で譲れない条件が展望なのか、プライバシーなのか、日当たりなのかの優先順位を付けて、取捨選択をする事も物件価格を抑えるためには必要です。
また中古物件をリノベーションしたり等の選択も検討してみましょう。
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自治体の支援制度を活用する
お住いの地域やお務め先の自治体が、融資制度を設けている場合がありますので確認をするようにしてみましょう。
融資を受けるためにはその地域での一定の居住歴が必要であったり等、細かな申し込み資格があり、融資を行っていない自治体や、融資条件は異なります。
住宅金融支援機構のホームページに自治体ごとの融資情報がとりまとめてあります。
具体的な支援の方法には以下3通りのパターンがあります。
- 一般的な金融機関よりも有利な条件で自治体が直接住宅ローン融資してくれるケース
- 金融機関で住宅ローンを借りた後に、一部の利息分を一定期間補填してくれるケース
- 自治体が金融機関に対して、まとまった額の預金を行う代わりに、住宅ローン利用者が有利な条件で融資を受けられるケース
平成29年度に東京都が行った支援制度の募集内容(実績)
制度名 | 東京都個人住宅利子補給助成 |
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自治体 | 東京都 |
募集戸数 | 30戸 |
対象物件 | 指定地区内で、耐火または準耐火構造の自己用住宅を建設または建て替えを行う物件 |
融資額 | 次の(1)、(2)、(3)のいずれか少ない額を上限とし、金融機関が審査をする。 (1)融資額=4,590万円 (2)融資額=毎年の償還額が、申込み時の年収の25%以内になる額 (3)融資額=住宅の建替えに要する費用×90% |
融資利率 | 当初10年間について、年1.0%の利子補給を行う |
申し込み資格 | (1)次のいずれか一つに該当する地区に、耐火又は準耐火構造の自己用住宅を建設または建替えをすること。 1) 防災都市づくり推進計画で指定する整備地域 2) 防災都市づくり推進計画で指定する重点整備地域 3) 東京都木造住宅密集地域整備事業地区 (2)都道府県税及び区市町村税を滞納していないこと。 |
同じマンションでも価格を下げるには
■階数を低くする
マンションは高層階ほど価格が高くなる傾向があります。同じ物件でも価格を下げたい時にはもう少し低層階の部屋にしてみるという手段もあります。
子供が小さいうちや、自分が歳をとった時に上り下りが楽というメリットもあります。
■角部屋から中部屋にする
マンションの角部屋はプライベートが保てるほか、窓が多く取れるため人気が高く価格が高くなりがちです。
とはいえ中部屋も断熱性が高い、壁面が多く家具が置きやすいなどのメリットもあります。
■部屋の向きを変える
リビングの窓が東南向きなど、日当たりの良い部屋はやはり人気なので、値段も高めに設定されています。
日中は仕事で外出して家にいない人は、午前中に日が当たる東向きの部屋なども検討してみると良いでしょう。
派遣社員、契約社員でも借りられる住宅ローン
何十年も続く住宅ローンの返済で最も必要不可欠なのは『安定かつ継続した収入』ですが、派遣社員や契約社員など、正社員以外の雇用形態が増えている昨今、住宅金融支援機構のフラット35をはじめ、雇用の形態にとらわれずに借りられる住宅ローンも増えてきています。
しかしながら、条件の良い住宅ローンは、審査が厳しいという現実があるため、審査がゆるいローンは申込める店舗が限られていたり、金利が高かったりというようなケースが多いのも現状です。
一度に複数の金融機関の事前審査を申し込みすることが可能なサービスを利用して、借入れ可能な金融機関を探してみる手もあります。
住宅ローン一括審査申込
正社員でなくても組める住宅ローンの一例
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年収:特に決まりなし | |
雇用形態:特に決まりなし(契約社員・派遣社員、アルバイト・パートでも可) | |
勤続年数:特に決まりなし | |
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年収:特に決まりなし | |
雇用形態:特に決まりなし(契約社員・派遣社員、アルバイト・パートでも可) | |
勤続年数:特に決まりなし | |
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年収:前年度年収200万円以上 | |
雇用形態:特に決まりなし(アルバイト・パート、年金収入のみの人を除く) |
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勤続年数:特に決まりなし | |
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ネット銀行のため、とにかく金利が低く人気の高い住宅ローンです。年収、雇用形態、勤続年数に制限を設けていないので、低収入でも安定した収入がある方にはおすすめの住宅ローンです。 | |
年収:安定かつ継続した収入があること | |
雇用形態:特に決まりなし | |
勤続年数:特に決まりなし | |
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年収:前年度年収300万円以上 | |
雇用形態:正社員・契約社員(自営業も可) | |
勤続年数:2年以上(自営業の場合は業歴2年以上で300万円以上の所得があること) | |
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年収制度のハードルが低く、前年度の年収・所得が100万円以上なら申込が可能です。 事前審査はWEB上で可能なため気軽に申込む事が出来ます。 住宅ローンを契約するとイオンでの買い物が毎日5%オフになるという特典付きです。 |
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年収:前年度年収100万円以上 | |
雇用形態:特に決まりなし(アルバイト、パート年金収入のみの人を除く) |
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勤続年数:6カ月以上 | |
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年収:前年度年収100万円以上 | |
雇用形態:特に決まりなし | |
勤続年数:勤続または営業3年以上 | |
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