(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
住宅ローンを借りる際、頭金を入れると毎月返済額を圧縮することができます。
毎月の返済は楽なほうが嬉しいですが、頭金を支出することによって、預貯金が減ってしまうことに不安もあると思います。
預貯金はどの程度残すのが正解なのでしょうか。
最低限必要な預貯金の目安は、基本生活費の○ヶ月分
預貯金として最低限確保しておきたい額は、基本生活費の3~6カ月分とされます。
これは、仮に倒産や病気、災害といった不測の事態に陥っても、3~6カ月の生活費があれば、生活を立て直すことができると想定しているためです。
基本生活費の3~6か月分の預貯金はいわば「緊急資金」です。
緊急資金にプラスしたいのが、これから発生する「不定期支出」です。
年払いの生命保険料や、年末の帰省費用、世帯によっては旅行代金などが該当します。
さらに、数年以内に発生する予定の大きな支出も、預貯金として確保しておきたいです。
例えば車の買い替え資金や、子どもの進学資金などです。

ボーナスを活用する予定の支出も、預貯金で確保しておいたほうがいいのですか?

全額ではなくとも、支出を見越して預貯金に余裕を持っておくとでいいでしょう。


普段ならローンを賢く使うのもいいと思います。
しかし、住宅ローンを組んで数年以内に新たにマイカーローンを組むのはあまりおすすめしません。
家計に占める返済金の割合が高くなってしまうからです。
やむを得ずローンを組む場合も、まとまった額の現金を頭金として用意しておくのがベストです。

会社員のセーフティネットは手厚い
緊急資金について、3~6カ月の分の生活費で本当に大丈夫なのか不安な人もいることでしょう。
そこで会社員が受けられる社会保障制度を2つご紹介します。
会社員のセーフティーネット1 失業給付
所定の機関雇用保険に加入していれば倒産・解雇といった場合に失業給付を受けることができます。失業給付の概要は次の通りです。
給付日数
- 90日から360日の範囲
- 離職の事情、年齢・勤続年数などにより異なる
給付金額
- 従前の賃金の、おおよそ50~80%
- 賃金が低いほうが割合は高い
給付日数は状況に応じて異なりますが、自己都合退職よりも倒産・解雇といったやむを得ない事情の場合の方が長くなります。同時に、勤続年数の長いほうが給付日数の長い傾向にあります。
会社員のセーフティーネット2 傷病給付金
病気やケガで一定以上会社を休んだときに受け取れるのが傷病手当金です。
傷病給付金の概要は次の通りです。
給付開始するための休業要件
- 待期期間(連続して3日休む)
- 待期期間後、4日目以降に休業した日より支給
- 待期期間には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれる
給付額・期間
- 給付額は、おおむね直近1年間の平均給与の3分の2※
- 給付期間は最長1年6カ月
※正しくは、【給付開始前1年間の標準報酬月額÷30×2/3】
傷病手当金は、受給期間が長く、入院不要で受給可能なのがメリットです。
給付額はおおむね給料の3分の2になりますが、会社を休んでいてもそれだけの収入が得られるのは家計にとって大きいでしょう。
上記は主に、主流の働き方である「会社員」が対象の制度です。これらの恩恵がおよばない、個人事業主や会社経営者の方々は、その分緊急資金を多めに準備しておくといいでしょう。
その意味では、会社員なら緊急資金は基本生活費の「3~6か月分」、個人事事業主や会社経営者であれば「最低6か月分」を目安にしておくといいでしょう。
預貯金に不安がある世帯の味方!団体信用生命保険
住宅ローンのリスクを抑える手段としては、団体生命保険(以下:団信)も有効です。
預貯金が緊急資金程度しかなく頭金が用意できない世帯には特におすすめです。
というのも、借入額にかかわらず団信は、住宅ローン全額を保障する保険だからです。
団信では、ローン契約者の死亡や高度障害など、事態が深刻なケースについての保障は基本的に無料付帯しています。
がんに特化した「がん特約」、がん・急性心筋梗塞・脳卒中の疾病を加えた「三大疾病特約」など、保障範囲を広げたものは保険料がかかることが多いですが、通常の保険に加入して住宅ローン残高並みの保障を受けるよりは割安になるとされています。
金融機関によって保険料はまちまちですが、おおむね上乗せされる金利は0.2~0.3%程度です。
仮に借入が3,000万円であれば毎月返済額への上乗せは3,000円程度(※)です。この程度の上乗せなら、許容できる人も多いのではないでしょうか。
また金利上乗せ型は、返済が進み借入額が小さくなると保険料が小さくなる点も、合理的な保険です。
頭金を無理に上乗せせずともリスクヘッジできるのが団信の強みです。
預貯金が少なく、病気で収入が減った場合に返済が続けられるか不安な人は、検討してみましょう。
※35年返済、団信なしの金利が1%のケースの場合
預貯金が豊富な世帯の頭金は、バランスが大事
続いて資金に余裕がある世帯について考えてみます。
「緊急資金」と「不定期支出」を合わせてもまだ預貯金に余裕がある場合に、「金融資金」「不定期支出」を除いたすべての預貯金を頭金にする、というのはやや乱暴です。預貯金が豊富な場合は、頭金をどの程度支出すればよいでしょうか。
以前は金利負担が大きかったので頭金を入れて総返済額を抑えることはメリットがありました。
しかし現在は低金利のため金利負担は小さく、毎月の返済額頭が確実であれば、頭金を大きく入れる必要性は少ないといえます。
低金利の現在において頭金を入れるメリットとしては、主に下記の3点です。
- 毎月返済額を減らせる
- 借入額を減らすことで返済期間を短くすることができる
- 融資割合を下げることでより低い金利が受けやすい
1の「毎月返済額を減らせる」と2の「借入額を減らすことで返済期間を短くすることができる」については似ているようで異なります。
1は毎月の負担を減らすもの。
2については早く返済を終わらせるものと、目的が異なるからです。
1「毎月返済額を減らせる」について考えてみると、返済が苦しくないなら頭金を入れる必要性は低いです。
なお、「返済の安全性」がどの程度なのか疑問な場合は、返済負担率を目安にするといいでしょう。
目安として、年収に占める返済金の割合である「返済負担率」は、25%以下としたいです。
今後支出が増える見込みの世帯であれば、20%前後を目指してもみてください。
2「返済期間を短くする」については、返済プランによります。
漫然と返済していくと、退職後の返済がおぼつかなくなるような世帯なら、返済期間の短縮は有効です。
しかし退職金や余剰資金が十分にあるなどの理由で、返済期間を短くしなくとも完済の見通しが立つならば、頭金はそう重視しなくていいでしょう。
3「融資割合を下げることでより低い金利が受けやすい」は、実質的な金利負担を圧縮することができます。
例えばフラット35では、融資率が9割超と9割以下の金利最頻値は、0.2~0.3%程度の違いがあります。
資金な余裕のある人こそとれる金利対策です。よりお得なローンを組みたい人は、検討してみてください。
まとめ 預貯金をどの程度残せばいいのかは、家計や返済プランによって答えが違う
住宅ローンの借入時に預貯金をどの程度残すべきかは、難しい問題です。
預貯金の最低額としてここでご紹介したのは、生活費の3~6カ月である「緊急資金」と毎月の収入からは支出しにくい「不定期支出」です。結論としてこの2つの資金さえ確保できれば、生活の安全度はある程度担保できます。
しかし、「緊急資金」と「不定期支出」を確保してもなお預貯金が豊富である場合は、返済負担・返済プランとのバランスも考えて頭金の額を調整していくといいでしょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所