(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
福利厚生として住宅手当制度を用意している会社は少なくありません。
住宅手当のなかには賃貸住まいの社員に対して一定金額を支給する「家賃補助」と呼ばれるものがあります。
家賃補助は通常、持ち家になると支給されなくなってしまうため、住宅購入意欲を阻む要因になることがあります。
家賃補助があるために住宅購入を迷っている人のために、家賃補助を受けて賃貸に暮らし続けることと、住宅ローンを組んで家を購入することを比較していきます。
家賃補助とは
冒頭で述べた通り家賃補助とは住宅手当の一種です。
住宅手当は一般的に次の3つがあります。
1. 賃貸住宅の家賃を住宅手当として支給するタイプ
通常は給与として扱われるため、所得税の対象です。
2. 借上げ賃貸や社宅を提供するタイプ
家賃に相応する金額の大部分は会社が負担し、相場よりも低い「所定の金額」や「本来かかる家賃の一定割合」が給与から天引きされることが多いです。
天引きされた額は給与に含まれません。
3. 住宅購入者に対すして一定額を補助するタイプ
あまり多くはありませんが、住宅購入者に住宅手当を支給する会社もあります。住宅ローンを組んで家を購入した人限定、といったケースが多いです。
本記事では持ち家以外の人に支給される1と2について見ていきます。
1と2は内容に差がありますが、同じく「家賃補助」と呼んでいきます。
家賃補助は会社によって家賃補助の支給要件や金額はまちまちですが、住宅購入時に家賃補助がネックになるのは次のようなパターンです。
- 家賃補助の恩恵が大きく、住宅に関する支出が小さくて済んでいる
- 家賃補助に年齢制限がない、あっても年齢制限の年齢が高く恩恵を長期的に受けられる
- 持ち家になると、住宅手当が一切なくなる
このような条件では家賃補助の恩恵が大きく、住宅ローンを組んでまで住宅購入することにメリットを感じない人が多くなるようです。
家賃補助があるなら住宅購入は待ったほうがいい?
家賃補助の恩恵が大きい場合は、たとえ住宅購入の希望があったとしても「待ったほうがいい」とする考えがあります。
その理由について見ていきます。
理由1 家賃補助で浮いた金額を貯金し、頭金を貯めてから家を購入したほうがいい
家賃補助の支給中は住宅関連費用が抑えられるので、その間に住宅資金を貯めておくという考え方は一理あります。
特に家賃補助の支給に年齢制限がある人だと、「〇歳までは家賃補助を受けておいたほうが得」と考える人が多いようです。
ただしこの考えは、計画通りに貯めることが前提条件です。貯まらずに支出に回ってしまう、もしくは貯めても旅行やマイカーなどに使ってしまう、といった人にはあまり意味がないかもしれません。
貯めた資金を旅行やマイカーなど有効に使うのは悪いことではありませんが、住宅購入に関しては価格帯が大きいため頭金を計画的に貯めていく姿勢が求められます。
さらに、「物価が上昇」「消費税が上がる」などの外的要因によって、住宅価格が値上がりすると、住宅購入資金を貯めた意味が薄まってしまう可能性があります。
数年のスパンで物価や消費税が劇的に上昇することはないでしょうが、「将来子どもが独立したら、夫婦の家を購入しよう」「在職中は家賃補助があるので退職後に家を購入しよう」などと、住宅購入時期をかなり先に考えている場合は状況が変わる可能性がることを知っておきましょう。
理由2 家賃補助を前提として生活しているので、家賃補助がないと生活が立ち行かない
家賃補助がなくなると生活に支障が出るので、住宅購入が難しいと判断する人もいます。「家賃補助のある状態でも生活がギリギリ」「生活はできるけど、趣味や娯楽の費用が削られるは耐えられない」などさまざまなケースがあるでしょう。
ただし、家賃補助ありきの家計はもとよりリスクが高いです。
家賃補助制度は法律で定められた制度ではありません。
あくまで会社の福利厚生の一環であるため、業績悪化や福利厚生制度の見直しなどによって縮小・廃止の可能性があります。
家計を適正化するためにも、住宅購入の是非を検討するためにも家賃補助に頼った家計は見直しましょう。
理由3 住宅ローンを返済していくのが怖い
住宅ローンを組んでまで家を購入するこが不安である人もいると推測します。
家賃補助によって抑えられていた住宅費が増えるうえに、借金(住宅ローン)を抱えるのですから、不安を感じるのも無理はありません。
そういった人は、住宅を購入したときの生活を具体的に考えてみることをおすすめします。
購入金額から住宅ローンの返済額を試算し毎月返済額を算出します。具体的な金額を確認し、返済が苦しそうであれば家計の見直しや購入価格の調整をしていきます。
逆に問題がなさそうなことがわかれば、安心て住宅購入を検討できます。
家賃補助と住宅ローンの比較
住宅購入を待つ場合の懸念事項もあります。
それは購入時期を遅くすることで、住宅ローンを組む時の年齢が上昇することです。
住宅ローンは通常30年や35年で組むため、完済年齢が退職後も長く続く可能性が高くなります。
- 家賃補助を活用して頭金を貯めることによるメリット
- それによって住宅購入時期が遅くなるデメリット
この2つをシミュレーションで比較していきます。
【シミュレーション前提条件】
家賃補助について
- 3万円の家賃補助を得ている
- 住宅購入すると家賃補助は終了
住宅購入について
- 住宅購入価格は3500万円(便宜上、購入時期を遅らせたばあいも住宅購入価格は同額とする)
- 返済期間35年
- 適用金利1.3%(全期間固定金利とする)
人的条件について
- 購入検討年齢は30歳
- すぐ購入する場合は購入年齢が「30歳」、購入を遅らせる場合は「40歳」
- 退職年齢は65歳
上記の条件において、「今すぐ購入」場合と「10年間の家賃補助相当額を貯めて購入」する場合をシミュレーションします。
上記にない条件は考慮せず比較します。
【A:今すぐ家を購入】
- 購入年齢30歳
- 完済年齢65歳
- 住宅ローン借入額3500万円
ケースA
毎月返済額 |
総返済額 |
60歳時点の残高 |
|
金額 |
103,768 円 |
約4358万円 |
約600万円 |
60歳時点で約600万円の残高がありますが、完済年齢は65歳ですので、特に繰り上げ返済しなくとも住宅ローンが返済できる見込みです。
【B:10年後に家を購入】
- 購入年齢40歳
- 完済年齢75歳
- 住宅ローン借入額3140万円
※家賃補助の差額(3万円×12ヶ月×10年間=360万円)を貯金し頭金に充てた
ケースB
毎月返済額 |
総返済額 |
60歳時点の残高 |
|
金額 |
93,095円 |
約3900万円 |
約1500万円 |
頭金を支出した分、毎月返済額・総返済額ともにケースAよりも負担が小さいです。
しかし60歳時点で住宅ローンはあと15年、残高にして約1500万円です。
65歳で退職することを考えると、繰上返済を検討したほうがいいかもしれません。
繰上返済により老後資金が不足する可能性があるため、退職後の生活資金をしっかり巡視していくことが重要でしょう。
ケースAとケースBの毎月返済額の差は約7000円です。
しかし60歳時点の残高は約900万円の差が生じます。
住宅購入を遅らせるか迷っている人は、住宅ローンの完済年齢が遅くなるリスクを踏まえたうえで結論を出しましょう。
住宅購入はライフイベントに応じて考える
住宅ローンを組むさいには購入時の頭金や、当面の返済金の負担だけでなく、「最終的に完済できるか」まで考えることが重要です。
出口戦略のある返済計画を持つことで、将来の返済リスクを回避することが可能です。
ただし、住宅ローンの返済計画以上に大切なことは、購入意欲です。
住宅購入は買い物である以上、必要な時に手に入れることが重要だからです。
一般的には、結婚や子供が増えたときなど、ライフステージの変化に合わせて家を購入することが多いです。
結婚して新しい生活を始めるのに新居を構えられたら素敵ですし、子どもの成長に伴って子供部屋が欲しいと思うことは多いでしょう。
適切な「買い時」を見極めたうえで返済計画を立てていきましょう。
まとめ 住宅ローンの返済計画を立てよう
家賃補助がネックになって住宅購入を迷う人は少なくないかもしれません。
しかし、家賃補助の有無よりも住宅ローンの返済計画や住宅の買い時を見極めることの方が大切と言えます。
家賃補助が無くなるにもかかわらず、住宅ローンの返済が発生することは確かに不安かもしれません。
しかしだからこそ、住宅ローンの返済計画を立てて、確実な住宅購入をしましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所