(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
人生100年時代といわれる今、「老後の生活」について気になる人は多いでしょう。
特にマイホーム購入時は、返済期間が数十年の住宅ローンを組むため、住宅ローンが原因で老後破産してしまうことのないよう、慎重に考える必要があります。
住宅ローンで家計が圧迫され、結果的に老後破産してしまっては大変です。
住宅ローンが原因で老後破産するのはどんなケースなのでしょうか?付き合い方もあわせてご紹介します。
老後資金は2,000万円貯める必要がある?
住宅ローンを組めば、大きな借金を長い期間かけて返済していくことになります。
返済できるかどうかも大切ですが、返済後の生活も含めて考えることが必要ですので、老後破産のリスクも十分に知っておかなければなりません。
老後破産といえば2019年6月に金融庁が発表した「高齢社会における資産形成・管理(金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書)」が話題になりました。
報告書では「老後資金は2,000万円必要」との内容があり、多くのメディアが「老後の不安」をニュースとして取り上げました。
「老後資金が2,000万円必要」その理由は?
2,000万円もの金額を蓄えねばならないと聞くと、「マイホームを買う余裕なんてない」と考える人は多いかもしれません。
しかしマイホーム購入を諦める前に、「2,000万円」必要だという根拠を見ておきましょう。
この金額は、統計よりリタイア後の夫婦世帯において、毎月の赤字額が「月5万円」であることから導かれています。
65歳で退職し100歳まで生きると35年間です。毎月5万円が不足することなら、必要な貯蓄額は次の額になります。
・5万円×12月×35年=2,100万円
このような試算が、約2,000万円が必要であることの根拠でした。
老後資金はどう準備していく?
統計の数字から見れば、2000万円以上必要なことになります。
しかし、現実的には毎月5万円の赤字を受け入れられるのは貯えのある人だけではないでしょうか。
多くの人は、赤字が続くなら節約をしたり、アルバイトやパートで少額でも収入を得たりするはずです。
金融庁の「2,000万円必要」との数字は統計上の試算ですので、あまり気にしすぎないようにしましょう。
とはいえ、ある程度の老後資金は必要です。長い期間をかけて準備すれば老後資金は多くすることができるので、コツコツ貯めていきたいです。
住宅ローンが原因で老後破産する3パターン
老後破産を避けるためにはどうすればいいでしょうか。
ベストな方法は、余裕をもったマイホーム購入です。住宅ローンを返済しながら老後資金を準備していけるのが理想です。
ただし、余裕のあるマイホーム購入をしたはずだったのに家計が苦しくなってしまうケースもあります。
主なパターンをご紹介します。
1 教育費のピークについて、見通しが甘い
子どもの誕生を機にマイホームを購入する世帯は多いです。
子どもが成長したときの教育費はある程度予想することと思いますが、「(公立にいかせる予定だったが)子どもが私立を希望した」「浪人した」もしくは、「子どもがもう1人生まれた」などの事情により、予定が狂ってしまうことがあります。
こういった場合は、「教育費が増加した分、他の支出を抑える」「収入を増やす」などの軌道修正をしていかなければなりません。
教育費のピークを乗り切ったとしても、無理がたたってその後に老後破産してしまうパターンもあります。
教育費が家計を圧迫し、「本来なら老後資金になるはずだった資金を教育費に回してしまった」、「教育ローンを利用し返済が苦しくなった」などの場合です。
子どものいる家庭に知ってほしいのは、住宅ローンを組むさいに「住宅ローンと教育費の両立ができるのか」を考慮するだけでは足りない点です。
教育費のピークを乗り切っても、無理をしたせいで結果的に家計が破綻してしまうケースもあります。
「住宅ローン」と「教育費」の両立に加え、「老後資金」の準備も並行できるが見極めなければなりません。
なお、マイホーム購入時の数年は固定資産税の減免や、住宅ローン控除などの優遇措置があります。
優遇措置の期限が切れると実負担も増加します。
子どもの教育費の負担が重くなる時期と優遇措置の期限が切れる時期が重なるとダブルパンチで家計が苦しくなってしまうので注意したいです。
2 完済したのに老後破産
次に、定年時に住宅ローンを完済したけれども、肝心の老後資金がないケースです。典型的なのは、定年時に退職金で住宅ローンを一括繰上返済し、老後資金が不足する世帯です。
教育費や住宅ローンなど、目先の出費に追われて老後資金の準備を怠ったのはもちろんですが、貴重な退職金をあっさり住宅ローンに充ててしまうのも問題です。
「借金はないほうがいい」との考えは正しいですが、定年後の生活費も残しておかなければなりません。
住宅ローンの負担が重いなら、退職金の一部を利用して返済額軽減型の繰上返済をしてもいいでしょう。
毎月の返済額を減らして支出の圧縮を実現できます。
「完済」が最善ではありませんので、状況を見ながら返済していきましょう。
3 定年後に老後破産
完済年齢が70や75歳の住宅ローンは珍しくありません。
その中には「余裕のあるときに繰上返済して、定年(65歳)までには返済しよう」と計画して住宅ローンを組む人も多いです。
しかし、現実はそううまくいかず定年後に返済が滞ってしまう恐れがあります。
繰上返済が向いてない世帯がこのパターンに陥ります。
「繰上返済のためにお金を貯めたけれど、このお金があれば家族で旅行にいける」「ボーナスの一部を繰上返済に回すつもりだったけれど、車も買い換えたいし、今回は無理かな」などと、資金を消費してしまうのです。
住宅ローンを組む人の中には、繰上返済が「楽しい」と思える人と、「もったいない」と感じる人に分かれます。
もったいないと思うタイプの人は、繰上返済を返済プランに組み込まないようしたいです。
住宅ローンが原因で老後破産しないために
どう返済していくのか考えてマイホームを購入したはずなのに老後破産してしまうパターンを3つご紹介しました。ポイントをまとめると次の通りです。
- 教育費は予想よりも増える可能性も考慮する
- 繰上返済を過信しない
- 定年時の一括返済は、定年後の生活も考慮して慎重に行う


保険に入ることである程度カバーできますし、可能性の低いリスクを心配しすぎるのはよくありません。


ただ、死亡や重病などの「めったいないリスク」ではなく、もっと身近なリスクについて考えましょう。
例えば、ボーナスカットや残業縮小は比較的高い確率で起るかもしれません。
そうなったときのために、予備費を蓄えておくといいです。


「教育費が想定外に増えたとき」「妻の出産で世帯収入が減ったとき」「エアコンが壊れて修理費が必要なとき」など、自由に使えます。
どんな使途でも家計が助かるなら、結果的に住宅ローンの返済も安定します。

まとめ 住宅ローンの返済計画では老後資金についても考慮しよう
マイホームを購入しつつ、老後破産を防ぐためには、住宅ローン以外の支出についても考えることが大切です。
どんなに綿密な返済プランを立てたとしても、予定通りにいく保証はありません。
「教育費」「老後資金」「想定外の出費」それらを含め、家計を総合的に捉え、想定外の事態に対応していきましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所