(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
住宅ローン審査では申込者の収入面が考慮されるため、勤務先や勤続年数も審査対象です。そのため申込み前の転職は慎重に判断する必要があります。
一方、融資実行後は転職を行っても問題ないのかというと、そうとは限らず、転職をしたら借入先金融機関に報告が必要です。
転職が住宅ローンにどのような影響を与えるのか、融資実行の前と後に分けて紹介します。
融資実行前の転職 住宅ローン審査前
住宅ローンを申し込む前の転職については、一般的にはおすすめできません。
それは、住宅ローンの審査に勤続年数が関係することが多いからです。
転職が住宅ローンに与える影響を「申込要件」と「審査」の両面から見ていきます。
住宅ローン申込要件と勤続年数
住宅ローンの申込要件は、金融機関ごとに異なります。
勤続年数の規定がある金融機関と、ない金融機関に分かれます。
審勤続年数の規定がある場合
勤続年数1~2年以上としている金融機関が多いです。
なお、個人事業主や会社役員など自営業者の場合や規定が厳しく「開業後3年(3期)以上」としている場合が多いです。
勤続年数の規定がない場合
勤続年数に規定がない金融機関は複数ありますが、表現のニュアンスは下記のように若干変わります。
- 転職後、1回以上給与受給があれば申込み可能
- 就職または転職して間もない場合も申込み可能
- 勤続年数が1年未満でも申込み可能
さらに、年収の推定方法もいくつかあります。年収(もしくは給与収入)を見込額で申し込む、もしくは支払われた月額給与を年収に換算して年収を計算する方法などがあります。
後者の場合、1カ月分給与が支払われていた場合、「1カ月分×12」とします。
この例ですと、ボーナスが見込めるとしてもボーナスを推定年収に含めることが出来ないので、年収換算時に不利になります。
また、転職して間もない場合必要書類も通常のケースと異なり、「全ての職歴が記載された職歴書」や「(転職先による)転職後の収入を証明する書類」などが必要です。
住宅ローン審査において転職は不利に働く可能性がある
転職して1年未満でも申込み可能な金融機関は複数ありますが、申込みと審査は別の問題です。残念ながら、転職は住宅ローン審査では不利に働くことが多いです。
国土交通省の「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」によると、融資を行う際に考慮する項目として「勤続年数」を挙げた金融機関は、全体の95.6%に上ります。
勤続年数が長いほうが審査は有利であることが推測できます。
転職を繰り返す人は安定した収入が得られないと判断される傾向があるようです。
理由として、勤続年数が長いほど、安定して収入が得やすいとされるからでしょう。
「別に転職を繰り返しているわけではない」といった申込者もいるでしょうが、金融機関としては「収入の安定度」を客観的な数値である「勤続年数」で判断せざるを得ないのでしょう。
客観的な数値を重視する金融機関においては、住宅ローン申込みの前は印象が悪くなる可能性があります。
住宅ローン審査において転職が不利にならないケースもある?
通常、住宅ローン審査では転職は不利に働きますが、個別の事情が考慮されることもあります。
「キャリアアップ転職」「資格を活かした積極的な転職」「年収が大きく増える転職」などプラス要素が明らかな転職であれば特に不利にならないケースもあります。
住宅購入を控えている時に魅力的な転職オファーが来た場合、という場合はその転職がプラスに評価されるかどうか、客観的に判断したうえで決断します。
既述のように、勤続年数が規定より短い場合は「職歴書」を提出することが多いです。
職歴書にその転職が年収や働き方の面でプラス要素が多いことを記載できる転職なら「問題がない転職」と考えていいでしょう。
なお、職歴書は全ての職歴を記載します。
過去に短期間で転職を繰り返していたり、一貫したキャリアがなく場当たり的な転職を繰り返していたりする場合、職歴書によってそれが明らかになってしまいます。
なお、意中の金融機関がある場合はその金融機関の申込要件を確認しておきます。
プラス要素の強い転職であったとしても、申込要件に勤続年数が明記されていれば、その勤続年数を満たさないとその金融機関に申込みができないからです。
融資実行前の転職 住宅ローン審査中
次に住宅ローン審査中の転職についてです。住宅ローン申込み時に様々な書類を提出し、その書類で審査をするのだから申込み後の転職は問題ない、と考える人もいるかもしれません。
しかし住宅ローン審査中の転職はおすすめできません。
仮に審査中に転職をした場合は、申込み金融機関への申告が必要です。
転職により審査の前提が変わってしまうため、審査がやり直しになる可能性があります。
審査のやり直しによって審査期間が長引くと当初の段取りが狂ってしまいますし、さらに怖いのは、転職の影響で審査に落ちてしまことです。
審査に落ちることで住宅購入が叶わなくなると、売買契約時に支払った「手付金」は戻ってこないと考えられます。
売買契約書に住宅ローン条項があっても、審査に落ちら理由が「自己都合による転職」であれば住宅ローン条項が適用されない可能性が高いからです。
審査期間は長くとも1~2カ月ですので、申込みをしたなら、結果が出るまで転職はしないことをおすすめします。
なお、「審査中に失業してしまい、急遽次の仕事を見つけて転職した」という場合もあるでしょう。
そのようなケースでは、まずは金融機関に連絡して事情を伝えます。本人の落ち度による転職ではないと判断されれば審査が継続されるかもしれません。
とはいえこのケースでは、転職によって返済が苦しくなることもあるでしょう。
返済が厳しい場合は、金融機関側に相談して購入を見合わせることも検討しましょう。
結果的に手付金が返ってこないかもしれませんが、無理な住宅ローンを抱えることは回避できます。
融資実行後の転職
最後に、融資実行後の転職について紹介します。
融資実行後とは住宅ローン返済期間を指しますので、期間が長いだけに転職する可能性も高くなるでしょう。
融資実行後の転職 注意点
住宅ローン返済中の転職は原則自由です。
転職したら借入先金融機関に報告が必要ですが、転職することで返済条件が変わったり、ペナルティが課されたりするようなことはありません。
住宅ローン契約上の影響は少ないとはいえ、勤務先が変わることで一時的に収入が途絶えることが考えられます。
返済の継続性においては「転職先が合わずに短期退職してしまう」「条件が想定と異なり収入が減る」のような不安が生じます。
そのため、転職によって住宅ローン返済が危うくならないよう予防策を講じておきたいです。予防策は主に3つあります。
- 住宅ローンの返済の予備費を確保しておく
- 繰り上げ返済を行う
- 借り換えを行う
1つ目の「予備費」は自己資金の確保です。予備費があれば、転職による返済リスクを軽減できます。
2つ目の繰り上げ返済は、あらかじめ返済額軽減型の繰り上げ返済で毎月返済額の負担を軽くしておく方法です。
3つ目の「借り換え」は、適用金利が低くなることで毎月返済額を減らす効果が期待できます。
3つ目の借り換えを検討しているときは、転職前に行います。
借り換えは新たな金融機関での借り入れとなるため、転職してしまうと既述のとおり借り換え先金融機関での審査が厳しくなることが予測されるからです。
転職と借り換えの双方を検討している場合は先に借り換えを行った後に転職するのが望ましいです。また、借り換えは住宅ローンの保証料や事務手数料、抵当権設定などの諸経費が発生します。
そのため必ずしも返済額が少なくなるとは限りません。借り換えを行う場合は、諸経費も含めてメリットを確認します。
転職は、融資実行の前後に関わらず影響が大きい
転職は収入と直接関係があるため、住宅ローンの融資実行の前後を問わず影響が生じます。
特に、融資実行前は審査のある重要な時期なので、避けたほうが無難です。
融資実行後の転職は、転職によって住宅ローン返済が危うくならないか、よく見極めて行うといいでしょう。
もしも返済に不安を感じるときは、自己資金の確保や繰り上げ返済などの方法で、リスクを減らしたうえで転職していくといいでしょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所