住宅ローンジャーナル 返済

住宅ローン控除の適用期間中は繰上げ返済を待つべき?

(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)

住宅ローン控除の適用期間中は繰上げ返済を待つべき?

「住宅ローンの繰上返済をしてしまうと、住宅ローン控除が減るので損」と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

確かに、繰り上げ返済で住宅ローン残高が減れば、住宅ローン控除もその分減ってきます。しかし、繰り上げ返済すれば返済額が減るメリットがあります。

住宅ローン控除と繰上返済を迷ったらどちらを優先させるべきなのでしょう。

住宅ローン控除適用中の繰上返済について知るために、まずは両者の特徴から学びましょう。

住宅ローン控除とは

住宅ローン控除とは10年間、毎年末の住宅ローン残高の1%が、所得税が控除される制度です。

「それなら、3,000万円の住宅ローンを組んだ場合は年間30万円(3,000万×1%)も還ってくるの」と思ってしまいそうですが、ほかにも条件や制限があるため、目一杯還ってくるとは限りません。

控除額についての要件をご紹介します。

控除額上限にかかる要件

控除額は、次の3つのうちで一番小さい額となります。

  1. 毎年末の住宅ローン残高の1%
  2. 納付した所得税(住民税の一部も含む)額
  3. 年間の最大控除額40万円(長期優良住宅、低炭素住宅の場合は50万円)

上記の要因によって住宅ローン控除額は決まります。

不動産物件の広告やセールストークでは、「最大で400万円(500万円)の住宅ローン控除が受けられる」などと簡易的な言い回しがされることがありますが、実際は個々の事情により住宅ローン控除額は変わってきます。

返済がすすめば住宅ローン残高は年々減っていきます。

また、所得税の納税額は収入や家族構成などによって変わるので、増減どちらの可能性も秘めているもの。

住宅ローン購入時に見込んだ通りの控除額が、将来にわたって得られるとはいえません。

つまり、繰上返済によって住宅ローン残高は減りますが、減った分、そのまま住宅ローン控除が減額されるわけではないようです。

住宅ローン控除額と消費税の増税

2019年10月の消費税増税に合わせ、住宅ローン控除が拡充されます。

消費税率10%が適用される住宅を取得した人を対象に、控除期間が13年に延長。

11年目から13年目までの各年の控除額は「建物価格の2%分」となる見通しです。

もしそうなるならば、11年目以降、住宅ローン残高は考慮しなくていいことになりますので、繰上返済により住宅ローン控除の恩恵が減る懸念はなくなります。

なお、住宅ローン控除を受けるためには、住宅や人にかかる要件もあります。

例えば、床面積が50m2以上であることや、その年の年収が3,000万円以下であることです。これらの要件も事前に確認しておきましょう。

繰上返済のメリットと注意点

続いて繰上返済についても見ていきます。繰上返済には「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。どちらも総返済額を減らしますが、効果の大きさが若干違います。

返済期間短縮型

  • 住宅ローンの返済額はそのままに、返済期間を短縮します。毎月の返済額は変わりませんが、返済を早く終えることができます

返済額軽減型

  • 住宅ローンの毎月の返済額を減らします。返済までの期間は変わりませんが、毎月の返済負担を軽くすることができます

繰上返済の注意点

繰上返済は総返済額を減らす効果がありますが、注意点もあります。繰上返済によって手持ちの現金が不足してはいけません。

特に住宅購入世帯は小さい子供がいる場合が多いです。

教育費のことを考えると子供が大学を卒業するまでは手持ち資金を温存しておいたほうが安心かもしれません。

ただし中には、毎月返済額を減らさないと教育費と住宅ローン返済の両立ができない世帯もあるでしょう。そういった場合は繰上返済が有効です。

住宅ローン控除の効果を薄くしてしまう懸念があることも注意が必要です。こちらについては効果を次の章でシミュレーションしてみたいと思います。

住宅ローン控除と繰上返済の効果を比較

繰上返済せず住宅ローン控除を受け取る場合と、住宅ローン控除期間中に繰上返済をするケースを比較してみます。

【借入条件】

  • 借入額 2500万円
  • 金利 2%(全期間固定金利)
  • 借入期間 35年
  • 年間返済額 約99.4万円

【比較条件】

  • 控除額は常に納税する所得税額を下回るとした
  • 繰上返済をする時期は、3年目の終わりとした
  • ※シミュレーションは簡易的なものです
  • ※原則として、万円以下は切り捨てとしています

ケース1 繰上返済しない場合

繰上返済せずに住宅ローン控除を受け取った場合の10年間の返済額と受け取れる住宅ローン控除は次のようになります。

10年間の控除総額は215万円となりました。

年数 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目 総控除額
控除額 24万円 23万円 23万円 22万円 22万円 21万円 21万円 20万円 20万円 19万円 215万円

ケース2 3年後に500万円繰上返済した場合

3年後に繰上返済をします。

そのため3年目から、ケース1と比較し住宅ローン控除額が減っています。

控除総額は179万円になりました。

ただし、返済額の負担も4年目より軽減しています。

4年目以降の年間返済額は約78.2万円です。

年数 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目 総控除額
控除額 24万円 23万円 18万円 18万円 17万円 17万円 16万円 16万円 15万円 15万円 179万円

ケース3 3年後に800万円繰上返済した場合

ケース2と同じく3年後に繰上返済をしていますが、繰上返済額が800万円と増えています。

控除総額は157万円になりました。

ずいぶん減った印象がありますが、その分返済額の負担も大きく減っており、年間返済額は約65.5万円です。

年数 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目 10年目 総控除額
控除額 24万円 23万円 15万円 15万円 14万円 14万円 14万円 13万円 13万円 12万円 157万円

各ケースのまとめ

  ケース1 ケース2 ケース3
控除総額 215万円 179万円 157万円
繰上返済後の年間返済額 変わらず 約78.2万円 約65.5万円
35年間の総返済額 約3478万円 約3300万円 約3194万円

※繰上返済はケース2・3ともに返済額が減る「返済額軽減型」としています。

もしも返済期間が短くなる期間短縮型を選んだなら、返済額の負担は変わらず返済期間が短くなることとなります。

繰上返済のシミュレーションをご覧になり、毎月返済額の負担がかなり変わってくることがお分かりいただけたと思います。

総返済額の軽減だけでなく、日々の返済額が減らすことができるのは繰上返済の大きなメリットです。

住宅ローン控除と繰上返済は、お得感で比較するのは難しい

ここでは住宅ローン控除額がいくら変わるのかを比較するために、「住宅ローン控除が終了後に繰上返済」とのシミュレーションは行いませんでした。

現実的には「余裕があっても繰上返済は急がず、住宅ローン控除終了後に行おう」とのアドバイスも散見します。

確かに、返済の負担が重くないのであれば、11年後に繰上返済をして毎月の負担を減らすのが理想的な繰上返済かもしれません。

しかし住宅ローンの負担が思った以上に大きかったり、子供の教育費の負担が増えたりすることで生活が苦しくなることもあるでしょう。

そういった場合は住宅ローン控除期間であることに固執せず、柔軟に繰上返済を検討するといいでしょう。

返済の負担が重くなければ、住宅ローン控除の恩恵を10年間受けたほうがいいですし、負担が重ければ繰上返済によって返済の負担を軽くするほうが重要になるでしょう。

最善の策は家計状況や返済の負担感に応じて変わってくることになります。

どちらがいいのか迷ったら、住宅ローンを完済するための道筋か考えるといいでしょう。

住宅ローン控除と繰上返済の本当の効果とは

先のシミュレーションでは、繰上返済することで総返済額も変わってくるので参考までにご紹介しました。

ただ、住宅ローン控除は10年間の制度ですし、総返済額については35年間の総額です。

長期間にわたるため、なかなか「〇〇万円得した」との実感を得ることは難しいかもしれません。

大切なのは、住宅ローン控除で受ける恩恵や、繰上返済で返済が楽になった分、家計が潤うことです。

控除額がどんなに多くても、繰上返済による負担軽減がどんなに大きくとも、その分漫然と支出が増えてしまうと、家計は楽になりません。

得られたメリットに対し「家族で楽しむための支出に回す」「将来の教育費のためにしっかり貯める」など意識しておくと、本当の意味で制度や繰上返済の恩恵を受けることができるといえるでしょう。

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