(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
共働き夫婦が「家を買う」といったら、夫婦二人の収入で購入すると考えるのが一般的だと思います。
夫婦で力を合わせて家を買おうと考えていたとき、もしも妻の妊娠が発覚したらどうなるのでしょう。
住宅ローンやマイホームの購入計画への影響をご紹介します。
夫婦で組む住宅ローンの種類
「夫婦で家を買う」に明確な定義はありません。
夫が働き、妻が専業主婦として家事を切り盛りすることも「夫婦で家を買う」といえるでしょう。
しかしここでは特に、夫婦で融資を受ける場合で考えたいと思います。
具体的には、夫婦それぞれがローンを組むペアローンや、審査の際に世帯主の年収だけでなく、配偶者の年収も一定割合加味する「収入合算」による方法のことです。
ペアローンや収入合算の概要は次の通りです。
ペアローン
夫婦それぞれがローンを組む方法です。
住宅ローン控除も夫婦それぞれ適用可能ですが、ローンが2本分となるので事務手数料や保証料なども2本分となります。
ただし、保証料は借入額に対して一定比率でかかることが多いため、単純に2倍になるとは限りません。
収入合算
住宅ローン申込者(ここでは夫)の収入に、配偶者(ここでは妻)の収入を加えて住宅ローンの審査をすることです。
金融機関によって合算者の対象条件や、合算できる金額の上限が違います。
なお、フラット35で収入合算を受けるためには配偶者が連帯債務者になることが求められます。
連帯債務者とは、主債務者に連帯して住宅ローンを返済していく者のことです。連帯債務者は単なる配偶者よりも、法的に返済の責任が重くなると考えましょう。
なお、連帯債務者も住宅ローン控除を受けることができます。
ペアローン・収入合算ともに、妻の妊娠で利用できなくなる可能性が
共働き夫婦にとってペアローン、収入合算ともにありがたい仕組みだと思います。
しかし、妻の妊娠でこういった借り方ができなくなる可能性があります。
金融機関ごとに対応は異なるので、明確に「可・不可」をいうことはできませんが一般的には利用できなくなると考えていいでしょう。
というのも、ペアローンも収入合算も、妻に安定した収入があることが前提だからです。
「妊娠しても、うちの会社は育児休暇の制度がしっかりしているから大丈夫」と考える人もいるでしょうが、育児休暇制度の充実と復職は別の問題になります。
妊娠は喜ばしいことですし、通常の夫婦であれば、「子どもができたし頑張って働こう!」と勤労の意欲は増すことでしょう。
しかし、住宅ローンの審査では妻の妊娠は、家計の不確定な要素とみなされてしまうのです。
妊娠による家計の変化
育児休業制度では、出産・育児を原因として会社を休んでも、一定額の給付を受けることができます。
しかしその額は給与と同等額ではありあません。具体的には次のとおりです。
【出産手当金】
出産に伴い会社を休む場合に健康保険から支給されるものです。
1日あたりの支給額=(支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準月額を平均した額)÷30日×2分の3
※標準報酬月額とは毎月の月額給与等を区切りのいい金額幅で区分した額のこと
【育児休業給付】
育児休業中に支給されるものです。
※支給期間は原則として子どもが1歳までですが、保育施設が見つからないなどの事情があれば2歳まで延長可能です。
支給額=支給対象期間(1か月)当たり、原則として休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業の開始から6か月経過後は50%)相当額
育休期間が6か月を過ぎると減額することに注意が必要ですね。
出産後に仕事を継続するにせよ、産休・育児中の給付額は、それまでもらっていた給与の「半分から3分の2程度」です。
また、職場復帰の時期も、住んでいる自治体の保育園状況に左右されてしまいます。
待機児童の多い地域では、保育施設がないために「働く意思があっても就業できない」事態もありえます。
また、働きだした後も、子どもがいれば勤務時間は一定の制限を受けることになるでしょう。
一般的には勤務時間が短縮される「時短勤務」で働き続ける人が多いです。
時短勤務時の給与がどうなるかは勤務先の給与規定によりますが、収入ダウンが予測されます。
これらの事情から、妻の妊娠中にペアローンや収入合算を利用することは難しくなっているのです。
妻の妊娠で、ペアローンや収入合算の利用はどうなる
残念ながら、妻が妊娠するとペアローン・収入合算ともに利用できなくなるのが一般的です。
ただし、一部の金融機関では条件を付けたうえで利用を認めています。
「利用ができない場合」と「利用できる可能性がある場合」、それぞれのポイントをご紹介します。
ペアローンや収入合算が完全にできないケース
ペアローンや収入合算を前提にマイホーム購入を考えていたのにそれらが利用できないとなると、マイホーム購入計画そのものの見直しが求められます。
うしても夫婦で購入したいなら、ペアローンや収入合算がいつから利用可能になるのかチェックしましょう。
妻の復職後すぐにOK、復帰後3カ月経過後からOK……など、金融機関によって条件が変わってきます。
妻の復帰後の働き方もよく検討します。
というのも、時短勤務中は収入が減ることが予想されますので、その分妻の借入額も収入合算の額も小さくなるからです。
ペアローンや収入合算が可能なケース
産休中や育休中でも復職予定であればペアローンや収入合算が利用可能な金融機関もあります。
例えば住信SBIネット銀行のネット専用住宅ローンでは、復職予定であれば妻が妊娠中でもペアローン、収入合算ともに利用可能です。
その場合は次のような書類の提出が必要とされています。
- 育児休暇(もしくは産休)取得前に通年で勤務されていた年の源泉徴収票の写し
- 育児休暇(もしくは産休)の期間を証明する資料
なお、同銀行の「フラット35」の場合は、育休(もしくは産休)中でも、融資時までに復職予定ならば住宅ローンの申し込みができるとしています。
同じ金融機関でも商品によって差があるので注意しましょう。
ただし、申し込みが可能だとしても、世帯収入の不確定要素が増す分、審査は厳しくなります。
例えばみずほ銀行は、妻が妊娠中でもペアローンの申し込みはできますが、預貯金など、家計の資産をより厳格にチェックするとしています。
利用可能な金融機関があるとしても、手放しでは喜べないようです。
妊娠中の団信加入は難しい
仮に、妻の妊娠中にペアローンを組んだり、収入合算を行えたとしても、もう一つ重要な問題があります。
妊娠中の女性は団信(団体信用生命保険)に加入できない可能性があるからです。
団信に加入できない場合、ペアローンを組むリスクが非常に大きくなります。
団信に加入できないと、金融機関の方から夫のみの住宅ローンを進められるかもしれません。
ペアローンや収入合算が可能な場合も、過信は禁物
妊娠中の妻と夫でペアローンを組んだり、収入合算を行う場合、借入額を抑えることを意識するべきでしょう。
妻の職場復帰が確実ではない以上、妻の収入をあてにしすぎるのは危険だからです。
希望通りの復職が叶わなかった場合に備えておくことも重要です。例えば、育休中に家計の支出を抑えて少しでも貯蓄しておけば、想定した時期に復職はできなくとも家計へのダメージを抑えることができます。
妻の体調や子の預け先の関係で復職できず退職を選択する場合は、「いつごろ・どのように再就職するのか」「再就職はせず家計のスリム化で住宅ローンを返済していく」など、夫婦で話し合うことが欠かせません。
さまざまな状況を想定して、住宅ローンを安定的にして返済していけるようにしていきましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所