(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
「会社役員」といえば、収入が多く社会的な地位も高い印象があります。
しかし世間の評価とは別に、「住宅ローンの審査には通りにくい」と聞いたことがある人も多いでしょう。
そういった傾向も確かにあるようですが、なぜ高収入の会社役員がローンに通りにくくなるのでしょう。理由を住宅ローンの基本から解説します。
住宅ローンの基本
本来、年収が高いほうが借入には有利なはずです。というのも、年収は借入における重要な要素だからです。
キャッシングやカードローンなど通常の借入では「総量規制」という借入制限が適用されます。総量規制では年収の3分の1が借入上限と決まっています。
例えば年収300万円であれば100万円までしか借りられないことになります。
住宅ローンは総量規制の対象外ですが、やはり年収は大切なファクターです。
購入額や借入額を算出するのによく使われるのが「年収倍率」や「返済比率」といった指標です。
年収倍率
年収倍率は年収の何倍の物件を購入するか、ということです。借入額を決める前に、購入物件の価格を大まかに推定することができます。フラット35を提供する住宅金融支援機構の「2017年 フラット35利用者調査」によると、年収倍率は新築物件では大体6~7倍となっています。年収400万円なら2,400万~2,800万円、年収500万円なら3,000万~3,500万円・・・・・・などと物件価格の見通しをたてることができます。
返済比率
年収に対する年間返済額の割合のことです。
ここでいう年間返済額は利息も含めたものですし、住宅ローン以外の借入があればそれも含みます。
通常、各金融機関では借入条件(融資条件)として、返済比率の上限を設けています。通常は30~40%以内となっていますが、あくまで目安です。個々の年齢や勤続年数なども影響しますが、原則として年収が多ければ上限は高く、逆に年収が少なければ低く設定されると考えていいでしょう。
このように、収入からある程度「いくらくらいのマイホームを目指すのか」「借入額はどの程度か」を推し量ることができます。
分母である収入が多ければ、年収倍率・返済比率ともに大きな数値が算出されます。
そのため本来なら「収入が多いほうが高い物件が購入できる(借入できる)」と言えるのですが、それだけではない問題があります。
住宅ローンの審査で重視されるのは「安定性」
住宅ローンでは、「現在の収入」も大切ですが、「将来の収入」も大切です。
返済期間が数十年にもわたる以上、これからの収入を重視するのは当然でしょう。
安定性を判断するために「勤続年数」や「勤務先」の情報を審査します。信用力として過去にクレジットカード延滞履歴がないかも確認します。
勤続年数が長ければと継続して就業していく力があると判断されますし、企業規模が大きければ倒産や解雇のリスクが小さく返済の信用力が増すでしょう。
定年後は収入が減るのが普通なので、定年までの年数も重視されるでしょう。






そのため金融機関は申込時の収入よりも、30年や35年といった長期間、安定して返済してくれると考えられる「信用力」や「安定性」を重要視するのです
返済の安定性が高いと評価されるのは会社員や公務員
給与が安定して倒産の可能性が低い大企業や、解雇や倒産の不安がほぼない公務員は金融機関からの信用が高いです。
特に公務員は業績によるボーナスカットや退職金の目減りが、なく、給与水準や退職金がおおむね予測できるので借入を受けやすいです。
同じ会社役員でも上場企業の会社役員なら信用力も高いのかもしれませんが、日本にある会社のほとんどは中小企業ですので、ここでは中小企業の会社役員について考えていきます。
住宅ローン融資時における、会社役員や社長のリスク
住宅ローン審査における会社役員の信用力はどのように評価されるのでしょう。
残念ながら会社役員の評価は厳しいでしょう。その理由は主に3つあります。
なお、ここでの会社役員は中小企業を対象としていますので、経営に深くかかわっている会社役員と考えてください。
理由1 経営者としてのリスク
中小企業の社長や会社役員は、業績と収入が直結しています。
現在は収入が高かったとしても、経営状況が悪くなれば、収入が減ってしまうかもしれません。
現在業績が良くても景気や為替の影響など潜在的なリスクが考慮されることになるでしょう。
業績が良くてもそうなのですから、決算が赤字の場合はさらに審査が厳しくなります。
理由2 社会保障上のリスク
会社役員は原則として雇用保険や労災保険に加入できません。
どちらも、労働者のための社会保険であり、経営者側に属する人のためのものではないからです。
会社役員は業績が悪化したときに解任されるリスクもありますが、雇用保険に加入できなければ、解任し収入が途絶えた場合に失業保険を受給することはできません。
会社に万が一のことがあったときのリスクが会社員よりも大きいといえます。
理由3 企業としてのリスク
収入が高いのに住宅ローンを組みにくいのはおかしいと感じるかもしれません。
しかし中小企業は倒廃業が多いのも事実です。現在の収入が多くとも、経営者・役員に何かがあれば一気に会社の経営が傾くかもしれないと判断されてしまいがちです。
経営が安定しており、決算も継続してよい中小企業もあるでしょうが、中小企業は後継者問題があり、業績が良くても廃業するケースも少なくありません。
会社役員等が住宅ローンを組む場合の必要書類
通常の会社員と会社役員では、住宅ローン審査で提出する必要書類も若干違います。
会社の経営にかかわる書類も追加で必要になります。ここでは2つ、例をご紹介します。
【イオン銀行】
対象 | 必要書類 | 備考 |
同族会社の役員(親族が経営者である同族会社の従業員を含む) | ・法人税の確定申告書(決算報告書および勘定科目明細書を含む)
・法人税の納税証明書 ・法人事業税の納税証明書 |
期間:直近3年分
なお、給与所得者としての源泉徴収票・階税証明書等の書類も必要 |
【楽天銀行】
対象 | 必要書類 | 備考 |
原則は法人代表者(法人役員も提出が必要な場合がある) | ・決算報告書(勘定科目内訳書を含む)
・法人確定申告書(付表を含む) |
直近2年分 |
上で挙げた書類はただ提出すればそれでOKなのではありません。本来は、経営が安定していることを証明するために提出するもの「決算書3期分で赤字の期が1つでもあると融資不可」といった場合があります。金融機関ごとに判断は異なりますが、理想は会社の経営が3年続けて黒字であることです。
中小企業の中には、節税のために「あえて利益を薄くする」方針をとっている会社もあります。しかし住宅ローン審査では赤字があると非常に不利になりますので注意しましょう。
フラット35なら人的信用よりも物件の質が重視される
フラット35は会社役員でも比較的通りやすいとされます。
理由として、独立行政法人である住宅金融支援機構は、株式会社である金融機関のように、利益を第一に追求する団体ではないからです。
フラット35を提供する住宅金融支援機構は、組織目的を「貸付け業務により、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与する」こととしています。
ただし「国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与」するために、良質な住宅を供給することも目的としていますので、物件に対する審査は厳しくなっています。
フラット35の融資を受けるための、住宅基準があるのでご注意ください。
また、「比較的通りやすい」とされているだけであり、実際にはやはり個別の審査によります。
「頭金を多くする」「決算が続けてよかったタイミングで申込」などの工夫は必要でしょう。
まとめ 収入の多さを利用して審査の有利に運びたい
残念ながら、会社役員の住宅ローンはハードルが高いようです。
ですが、「無理」というわけではありません。
会社役員であれば、収入は一定以上あるでしょうから、頭金を多めに準備したり、他のローンがあれば完済したりと、やれることはあるはずです。
良い材料をひとつずつ積み上げて、住宅ローンの審査に臨みましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所