基礎知識

住宅ローンの融資実行が取り消しになってしまうことはあるのか

(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)

住宅ローンの審査は「仮審査」「本審査」の2段階で進められます。

「仮」と「本」、2回の審査をパスすれば、あとは融資の実行を待つのみです。

融資が通り、実際に振り込みが実行されるまでは少し間があきますが、その間に融資が取り消されることはあるのでしょうか?

もし、そういった事態があり得るとしたら、それはどんなケースなのかご紹介します。

融資実行までの流れ

融資が実行されるまでの流れはどんなものなのでしょう。

融資実行の取り消しについて考えるまえに、融資実行までの段取りを確認します。

【融資実行までの大まかな流れ】

  1. 仮審査通過
  2. 金銭消費貸借契約(住宅ローン契約)締結
  3. 本審査
  4. 本審査通過(融資実行の意思表示)
  5. 融資実行

※一般的な流れです。実際には個々の状況によります。

仮審査が通ると、住宅ローンの本審査も通ることを前提とした住宅の「売買契約」を行うことが多いです。

売買契約では決済日も決めるので、決済日に融資を受けられるようにします。

住宅ローンを利用してマイホームを購入するなら「決済=融資実行」といって差し支えありませんので、決済日と融資実行日がずれないよう、調整していきましょう。

本審査を通過すると融資実行の「意思表示」はされますが、実際にお金が動くわけではありません。

最後の「融資実行」で融資額が申込者の口座に振り込まれ、その資金をもって決済を行います。

融資実行時はマイホームの所有権移転や抵当権設定登記、物件の引き渡し(鍵の引き渡し)なども一気に行われるのが通常です。

上記からもわかるように、本審査が通った後、融資が実際に振り込まれるまでは少し間があります。

本審査が通って安心していたら「やっぱり融資を取り消します」といったことはあるのでしょうか?

融資実行が取り消されることは、原則としてない

本審査が通ってから実行までの間に融資が取り消されることは原則として「ない」と言っていいでしょう。

そんなことにならないよう、仮審査・本審査があるのです。仮審査は年収や勤続年数など様々な書類を提出します。

期間は数日から1週間、本審査は12週間程度かかります。

場合によっては、もっと時間をかけて審査することもあります。それだけの手間と時間をかけて審査をするわけですから、決定が覆ることは考えにくいです。

とはいえ、先に述べた通り審査が通ってから融資が実行されるまでは、若干の間があります。審査と申込者の状況が審査時と大きく変わった場合は、「審査」そのものが意味をなさなくなってしまうかもしれません。

具体的にどのようなケースが該当するのか、見ていきましょう。

融資実行が取り消されかねないレアケース

1.申込者本人の大きな変化

融資実行が取り消されるような変化には、「死亡」や「高度障害状態」があります。

申込者が死亡した場合に融資の実行が取り消しになるのは当然でしょうし、「高度障害」もそれに類するケースです。

なお申込者だけでなく、連帯債務者等が「死亡」「高度障害状態」になったときも取り消される恐れがあります。

審査で「返済のために連帯債務者等の協力が不可欠」と判断していたのであれば、連帯債務者等の状況が変わることで融資実行が取り消される可能性が生じます。

他にも、申込者が重大な罪を犯した場合も融資実行が取り消される可能性があります。

融資を受けるには社会的な信用も大切です。

罪を犯せば信用を失うのはもちろんのこと、「職を失う」「(被害者からの)損害賠償で財産が減る」などのマイナス影響も懸念されます。

2.勤務状況の大きな変化

審査では勤務先の情報を提出し、そのうえで審査を通過しているのですから、勤務状況が変われば審査が取り消される可能性があります。

倒産や解雇、自主退職のほか、転職も避けるべきです。

キャリアアップとしての転職だとしても、融資実行後にしたほうが安全です。

3.信用情報の大きな変化

金額の大きな新たな借入をすると、返済の負担が増すため、融資が取り消される可能性があります。

マイカーローンや教育ローンなど、大きな借入をしないよう注意しましょう。

基本的に、それまでと同じようにクレジットカードを使うのは問題ありません。

ただし、通常のクレジットカード使用でも、返済が滞って信用情報に傷がつくようなことがあってはいけません。

クレジットカードの使用額をしっかり把握し、口座の残高不足にならないようにしてください。

このほか「破産」や「財産の差し押さえ」のような場合も、融資実行は取り消されてしまう可能性が高いです。

めったにない事態だとは思いますが、知識として知っておいて損はありません。

また、注文住宅やマンションの完成が遅れているときも特に注意したいです。完成を待っている間に、状況が大きく変わることがないよう、気を配っておきましょう。

いくつかご紹介しましたが、実際に取り消しになるかどうか、最終的な判断は各金融機関にゆだねられます。

「こんなことをして大丈夫だろうか?」と不安になったときは、金融機関に相談することをおすすめします。

融資実行が取り消しにあうと違約金は発生するのか

融資実行の取り消しについてもう1点気になるのが、「違約金の有無」だと思います。

不動産会社やハウスメーカーなどと締結した「売買契約」を破棄することになった場合の対応はどうなのでしょう。

また、「支払った手付金が返ってこないのでは?」と不安になる人も多いと思います。

融資が受けられないときに重要なのが売買契約の「住宅ローン特約」です。住宅ローン特約とはどんな特約なのでしょう。

住宅ローン特約の特徴

  • 住宅ローンを借りられなかったときには、無条件で売買契約の解約ができる
  • 無条件とは「違約金等の負担なし」「(支払った手付金があれば)手付金の返還」などを意味する

通常の売買契約では、上記のような特徴を持つ住宅ローン特約が付加されています。

ただし、あくまで特約の付加は任意ですので、特約がなくても違法になるわけではありません。

売買契約の際には、住宅ローン特約が付帯されているかを確認するようにしましょう。

住宅ローン特約が失効していることもある

また、住宅ローン特約があった場合も、100%安全なわけではありません。次のような注意点があります。

住宅ローン特約の注意点

  • 特約の有効期限が短い傾向にある
  • マイホームの買主は「誠実に住宅ローン申込みの手続をする義務」を負う

住宅ローン特約の本旨は、審査に通らなかったときの責任を回避するものです。

そのため、特約期間を「本審査が通る頃まで」として設定していることも多いです。

本審査が通った後の取り消しについては、特約期限が切れている可能性があります。

もう1点、「誠実に住宅ローン申込みの手続をする義務」があります。

「誠実」とは、住宅ローンが通るように努力することです。

例えば、その金融機関で融資の実行が取り消されたからといって、他の金融機関で融資が通るかもしれません。

もしくは、借入額を下げれば融資が受けられるかもしれません。「融資を受けるための努力をしていないので(住宅ローン特約の)適用不可」とされることもあり得るのです。

住宅ローン特約が失効していたり、不誠実と判断されたりして適用外になってしまうとどうなるのでしょう。

残念ながら違約金を支払わなければならないかもしれません。

ただそのときも、手付金を支払っていたときは「手付の放棄」で済むケースがほとんどです。

一般的な手付は「解約手付」であり、解約時に手付金を放棄すればそのほかのペナルティは問われない性質のものだからです。

住宅ローン特約の詳細は個々の契約により異なりますので、特約期間や「誠実に住宅ローン申込みの手続をする義務」の詳細や、手付金があるときはその役割などを確認しておくといいでしょう。

まとめ 住宅ローンの融資実行が取り消されるリスクはかなり低い

住宅ローンの審査が通った後に、融資実行が取り消しされる可能性はあまりないと言っていいでしょう。

とはいえ、うっかりマイカーの購入や転職をしてしまうと、融資実行が取り消されてしまうかもしれません。

大きな買い物や就業状況を変えることのないよう注意していきましょう。

参考【住宅ローンの選び方】初心者でも迷わないための比較ポイントと必須知識を解説!

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