住宅ローンジャーナル

住宅ローンをフルローンで借りる場合のメリットとリスクは

(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)

住宅イメージ

住宅を購入する際、頭金を入れずに物件価格全額を借入する「フルローン」。

フルローンを活用すれば預貯金がなくてもマイホームを取得できますし、預貯金があったとしてもそれを温存することができます。

このようなメリットがある一方、一定のリスクも生じます。フルローンのメリットとリスクを解説します。

住宅ローンで全額借入はできるの

住宅価格の全額を借入れすることを「フルローン」といいますが、以前は取り扱う金融機関が多くありませんでした。

「融資額は物件価格の90%まで」などの上限があることが多かったのです。しかし近年は物件価格の割合による制限を設ける金融機関は少なくなってきました。

ただし、物件価格の割合による上限がなくとも、金融機関独自の貸出上限額はあります。

大きく借りたい人は、フルローンの取り扱いと貸出上限額を念のため確認しておくと安心です。

手付金との違い

住宅購入時に手付金を支払うことも多いですが、手付金と頭金を混同されている人も多いかもしれません。

手付金とは、売買契約の際に契約成立の意思を示す証拠金と考えるといいでしょう。手付金は購入金額の支払いに充当されるのが一般的となります。

安易な契約破棄を防止する効果も持ち、頭金とは若干性質が異なりますが代金を支払う点は頭金と同じです。

手付金の金額は特に決まってはいませんが、通常10%~20%程度の範囲内です。フルローンを利用するつもりのでも手付金が必要なら、多少の自己資金は必要です。手付金の割合や金額に注意しましょう。

フルローンで住宅購入するメリットはどんな点?

フルローンのメリットは、冒頭でもお伝えしたように「預貯金がない」、「預貯金はあるが手を付けたくない」といったニーズに応えることができる点でしょう。

頭金がない世帯で、優良物件を見つけたので早く購入したい場合にもフルローンはありがたい存在です。

特に現在は低金利が続いているため、頭金を貯めている間に金利が上がることを警戒している人もいるでしょう。

2019年10月から消費税が上がることも決まっている今、数年かけで頭金を貯めるよりも購入を急ぐほうが賢いともいえます。

とはいえ、それだけで判断するのは早計です。金利上昇の可能性は確かにありますが、急上昇することは考えにくいからです。

また、消費税増税に備える制度としては「すまい給付金(※)」があります。

金利水準や消費税は住宅購入を考えるきっかけではありますが、それ自体で購入を決断するのは避けたいです。

むしろ住宅購入を急ぐとしたら、家族のライフイベントの点から考えたほうがいいでしょう。

例えば、年齢的に早く住宅を購入しないと定年後の住宅ローン負担が重いような世帯では、頭金を貯めている時間が惜しいのでフルローンで購入することも検討すべきでしょう。

※すまい給付金 消費税増税における、住宅購入時の家計の負担を軽減するための給付金。世帯年収に応じて一定の金額が受給できる

フルローンで住宅ローン控除の恩恵を受けるメリットはあるか

現在は住宅ローン控除によって所得税で還付が受けられるため、大きく借りて住宅ローン控除の恩恵も目一杯受けようと考える人がいるようです。

住宅ローン控除は年末の借入残高の1%に対して所得控除が受けられます。

ただし対象は支払っている所得税(と住民税の一部)が上限です。そのためいくら借入額を多くしても、納税額以上の恩恵は受けられないので注意しましょう。

所得税は収入に応じて決まるため、会社の都合や産休・育休などで給与が下がった場合は納税額も減ることが予想されます。

住宅ローン控除は有意義な制度ですが、それをあてにして借入額を増やすよりも、補助的に活用するほうが家計としては健全です。

フルローンのリスクについても知っておこう

フルローンでは借入額が大きくなってしまう点に留意しなければなりません。

毎月返済額が大きくなってしまうので、返済できるかどうかきちんと考えていきましょう。

また、転売時のリスクもあります。住宅は購入するとその時点で価値が下がってしまいます。

そのためフルローンで住宅を購入し、短期間で転売すると売却価格が住宅ローンの残高を下回ってしまう可能性があるのです。

これをオーバーローンといいます。

通常は長期的に住むことを想定して家を購入するでしょうが、急な転勤や親との同居など、想定外の事態に直面する可能性はあります。

数年で住み替えや売却することになったときのリスクを回避するには、2割程度頭金を入れておくのがいいとされています。

また、借入額が大きくなると審査も厳しくなりますので、少しでも頭金を入れておきたいものです。

フルローンが向いているのはこんな人

フルローンが向いているのはリスクを抑える「特効薬」を持っている人です。

リスクを抑えるために一番有効なのは自己資金でしょう。転売時にオーバーローンに陥ったとしても、自己資金があれば住宅ローンを完済することができます。

また、毎月返済額の負担が大きく返済が苦しいときに自己資金があれば、繰り上げ返済で返済額を軽減することが可能です。

今すぐ使える現金だけが自己資金とは限りません。

例えば、数年後に満期になる定期預金や、もうすぐ払込みが終了する終身保険など、近い将来自由になる資金は自己資金に含めていいでしょう。

定期預金は満期前の解約は原則できませんし、満期や払込み期間終了前の終身保険解約では、受取金額が払込金額を割ってしまうのが一般的です。

頭金のために払い戻しや解約をするよりも温存しておき、返済に問題が生じたときに投入するほうが家計メリットは大きいです。

ライフプランによっても向き不向きが生じる

特効薬である自己資金がなくとも、数年後に家計のキャッシュフロー(現金の動き)が良くなるならば、購入時に自己資金を取り崩さずフルローンを利用するのもいいでしょう。

例えば、これから大学受験・進学する子どもがいる家庭では、教育費のピークを前に自己資金を減らすのは得策ではありません。

いったんフルローンで購入し、教育費のピークが過ぎた後に繰り上げ返済する方法があります。

ただしこの場合も、教育費と住宅ローン返済の両立ができることが前提です、フルローンを選んだ結果、毎月の負担が大きすぎて困ってしまう事態は避けましょう。

頭金の有無で返済額は〇〇円変わる

同じ物件価格でも、フルローンか否かで返済額はかなり変わってきます。

一体どのくらい金額が変わってくるのでしょうか。住宅価格3,500万円の例で見ていきましょう。

【前提条件】

  • 住宅価格3,500万円
  • 金利 1.5%
  • 返済方法 全期間固定金利・ボーナス払いなし
  • 返済期間 35
頭金 なし 300万円 500万円
借入額 3,500万円 3,200万円 3,000万円
毎月返済額 10.8 万円 9.8 万円 9.2 万円
総返済額 4,501 万円 4,116 万円 3,858 万円

※返済シミュレーションは簡易的なものです。また、諸経費その他の費用は含めていません

頭金なしの場合4,501万円であった総返済額は、頭金を300万円支出することで385万円減り、頭金500万円の場合は643万円も削減することができます。

頭金500万円貯めている間に金利が2%に上昇していた場合はどうでしょうか?3,000万円を金利2%で返済するなら、「毎月返済額10万円」「総返済額は4,174 万円」となり、フルローンの場合(総返済額4,501 万円)よりも返済を抑えることができます。

ライフプランや完済年齢も関わってくるので一概にはいえませんが、単純に総返済額だけなら、多少金利が上昇しても頭金を貯めたほうがお得であることが分かりました。

まとめ

フルローンを上手く活用すれば、住宅ローン控除の恩恵を多く受けられたり、現金を温存しつつ住宅を購入することができたりします。

ただし借入額が大きくなる分返済リスクも増します。どう返済していくのか慎重に検討して頭金の有無を決定しましょう。

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