返済できる見通しを持って住宅ローンを組んだとしても、想定外に収入が減って生活が苦しくなってしまうことはあるでしょう。
そういった場合の選択肢として注目されているのが住宅ローンの「元金据置」返済です。
元金据置返済は金融機関の同意のもと、毎月返済額を一時的に抑えることができる返済方法です。
返済額を抑えることができるのは大きなメリットです、利用においては注意点もあります。元金据置返済について紹介します。
元金据置返済とは
住宅ローンの返済期間は長いです。
返済の途中で「共働きのつもりが片働きになった」「収入が減ってしまった」などの事態に陥ったり、もしくは天災や事故など想定外のことが起こったりすることも考えられます。
返済が苦しくなってしまった場合の選択肢は複数ありますが、金融機関の同意が得られれば、比較的容易に返済額を抑えることができるのが元金据置返済です。
返済が少し苦しいと感じている人はもちろんですが、今は問題なく返済している人も、元金据置返済について知っておくといざという時の助けになるでしょう。
元金据置返済は端的に言えば所定の期間、元金はそのまま(据置)とし、毎月返済時に利息だけ支払うことです。
所定の期間、返済額が減るため住宅ローンの返済が苦しいときには家計にとって一定の効果があります。
ただし元金を据え置いた分、元金据置期間が終了した後の返済額は「それ以前の返済額より高くなる」、もしくは、「返済期間が長く」なってしまいます。
つまり、総返済額は利用しなかった場合と比較すると高くなる点に注意が必要です。
元金据置返済のメリットと注意点
元金据置返済のメリットと注意点を詳しく紹介します。
なお、何らかの原因で「収入が減って返済が苦しくなった世帯」との前提でお伝えします。
元金据置返済のメリット
大きなメリットは、所定の期間とはいえ返済額を減らすことができる点です。
「転職により1年程度は収入が下がる」「時短勤務が明けるまでは返済が苦しい」など、返済が苦しい期間をピンポイントで返済額を抑えることが可能です。
返済が苦しい場合の選択肢として「借り換え」や「売却」があります。
それらの特徴を紹介したうえで、元金据置返済と比較してみます。
【借り換え】
現在の住宅ローンよりも低い金利の住宅ローンに借り換えができれば、返済額を抑えることができます。
ただし借り換え時には審査がありますので、収入が減っている状態だと借り換え自体が難しいでしょう。
仮に借り換えがうまくいったとしても借り換えは事務手数料や抵当権設定登記なその借り換え諸経費が必要です。
諸経費を考慮すると、借り換えを行って一時的にはかえって生活が苦しくなってしまうかもしれません。
【売却】
売却益を住宅ローンの返済に充てる方法です。
しかし売却するためには抵当権を解除しなければならず、売却価格が住宅ローン残高を割り込む場合は自己資金で差額を補わなければなりません。
また、引っ越し代や賃居にかかる転居費用もかかります。
売却価格が住宅ローン残高よりも高ければ選択の余地ありますが、そうでない場合は慎重に実行の可否を判断しなければなりません。
借り換えや売却と比較すると、元金据置返済は現状の住宅ローン契約を維持しながら当面の返済額を減らすことが可能です。
また、大きな諸経費は不要です。諸経費は不要か、もしくは所定の条件変更手数料ですみます。さらに売却のように、慣れ親しんだ我が家を手放す必要もありません。
元金据置返済の注意点
元金据置返済の注意点を3つ紹介します。
1:金融機関への交渉が必要になる
元金据置返済は、当然に選択できる返済方法ではありません。
なかには当初から元金据置返済がメニューに組み込まれた住宅ローンもありますが、数は少ないです。
原則は金融機関に交渉し、金融機関によって認められた場合のみ選択できる方法です。
なお、フラット35で返済額の減額や返済期間の延長措置を受ける場合は次の3つの要件を満たさなければなりません。
- 「離職や病気等の事情により返済が困難である」
- 「年収、月収の状況が所定の基準以下」
- 「返済方法の変更により、今後の返済を継続できる」
特に重要なのが、最後の要件でしょう。
元金据置返済を行っても、最終的に返済が難しいなら、実施する意義を見出せないでしょう。
元金据置返済を行うことが、最終的に完済につながることを金融機関に理解してもらわなければなりません。
その意味では、金融機関の同意を得るのは難しいかもしれません。
2:利息の支払いは継続する
返済額を減らすことができますが、返済がゼロになるわけではありません。
返済当初は返済金に占める利息の割買いが高いですので思ったほどは返済額が減らない可能性があります。
3:据え置くだけあって返済の免除ではない
据置期間中、元金が減ることはありません。
その状態で返済期間がそのままならば、据置期間終了後の返済額は増加します。
据置した分返済期間を延長すると、返済額に影響は生じないかもしれませんが、その分完済年齢が上がってしまいます。
元金据置返済の相談ができないケースにも注意
なお、原則として返済を滞納してしまうと元金据置返済の相談は難しいです。
滞納が生じることで住宅ローンの取り扱いが、任意売却や競売など、より深刻なケースに分類されてしまう可能性が高いからです。
その段階に移行してしまう前に返済方法を相談しなければなりません。
元金据置返済が向いているのは
元金据置返済に向いているのは次のような人です。
- 利息なら確実に支払える
- 収入が減ってはいるが利息が支払えるだけの収入はある人
- 返済が苦しいのが一時的な状態
- 収入減・もしくは支出増の状態が一時的で、いずれ通常の返済ができる日と
- 最終的に返済の見通しがつく
- 元金据置返済の期間が終わった後に返済額が高くなったり、返済期間が延びたりしても対応できる人
向き不向きを見極め、不向きの時は他の選択肢を検討するのが合理的です。
他の選択肢とは、先に紹介した「借り換え」や「売却」のほか、「返済期間の延長」や「ボーナス払いの取りやめ」があります。
「返済期間」の延長
金融機関の同意を得て、住宅ローンの返済期間を延長します。
返済期間の延長が認められれば、住宅ローン契約を維持したまま返済額を減らすことが可能です。
ただし、元々の住宅ローンもある程度長期間で組んでいるはずですので、大きく延長するのは難しいかもしれません。
完済年齢が上がる点も注意が必要です。
しかし元金の減らない「元金据置返済」と比較すると、毎月の支払いから確実に元金を減らすことができます。
元金据置返済は魅力的だけど、元金が減らない状態は避けたい、といった人に向いています。
ボーナス払いの取りやめ
ボーナス払いを設定する人が、金融機関の同意を得てボーナス払いを取りやめることです。
ボーナス返済がなくなることで毎月の返済額は増えるでしょうが、「ボーナスカット」の事態に手っ取り早く対応できます。
毎月返済額が増加分しても、問題なく毎月の返済を遂行できるかがポイントです。
毎月の家計には多少余裕があるが、ボーナスカットになってしまったのでボーナス払いは苦しい、といった人に向いています。
事前に毎月返済額がいくらになるのか確認し、その額が支払えるかどうかよく検討します。
返済方法の変更についていくつか触れましたが、認められないケースもあります。
だらこそ、誰しもこういった選択肢があることを知り、いざという時には速やかに有効な選択肢を検討し、金融機関に相談しに行くことが大切でしょう。
まとめ 返済が苦しくなったら早めに動くことが重要
返済が苦しくなってしまった場合の対処法として、元金据置返済のメリットと注意点を紹介しました。
また元本据置返済以外の選択肢も複数述べました。
選択肢はいくつかあるとはいえ、決断を先延ばしにすると取れる手段は少なくなってしまいます。
不安を感じたときは、早めに借入先金融機関に相談しましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所