(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
ローンを返すためには、しっかり働かなくてはなりませんが、健康状態が悪化すると、勤労そのものが危うくなります。
住宅ローン返済では「体が資本」なのですが、どんな人でも病気やケガのリスクはゼロではありません。
そこで住宅ローン専用の保険である「団体信用生命保険」の加入が重要になってくるのです。
しかしながら、持病や既往歴がり、団体信用生命保険への加入に不安を感じている人もいるでしょう。
団体信用生命保険の加入要件と、万が一健康状態が悪くて加入できない場合の対処法を紹介します。
健康状態が良くないと、住宅ローンは組めない可能性が高い
団体信用生命(以下、団信)は住宅ローン残高と保険金額が連動した生命保険です。
生命保険の一種である以上加入要件があります。
加入要件は団信より異なり、詳細は申し込みに時に提出する「団体信用生命保険制度申込書兼告知書」に「告知事項」で判断されます。一般的な告知事項は主に次の4項目です。
団体信用生命保険は住宅ローンの告知事項(例)
1 告知記入日より最近3カ月以内に医師の治療・投薬をうけたことがある
「治療」とは診察・検査・指示・指導などを指し、「審査の再検査をすすめられること」や「日常生活における指導やアドバイス」も含みます。
2 告知書記入日より過去3年に一定の病気に陥って「手術を受ける」もしくは「2週間以上の期間にわたり、医師の治療・投薬をうけた」ことがある
ここで対象となる主な病気は次のようなものです。
心臓・血圧
- 狭心症、心筋こうそく、心臓弁膜症、先天性心臓病、心筋症、高血圧症、 不整脈、その他心臓病
脳・精神・神経
- 脳卒中(脳出血・脳こうそく・くも膜下出血)、脳動脈硬化症
- 精神病、うつ病、神経症、てんかん、自律神経失調症、アルコール依存症、薬物依存症 、知的障害、認知症
肺・気管支
- ぜんそく、慢性気管支炎、肺結核、肺気腫、 気管支拡張症
胃・腸
- 胃かいよう、十二指腸かいよう、かいよう性大腸炎、すい臓炎 、クローン病
肝臓・膵臓
- 肝炎、肝硬変、肝機能障害
腎臓
- 腎炎、ネフローゼ、腎不全
目
- 緑内障、網膜の病気、角膜の病気
新生物
- ガン、肉腫、白血病、しゅよう、ポリープ
その他
- 糖尿病、リウマチ、こうげん病、貧血症、紫斑病…等
- 子宮筋腫、 子宮内膜症、 乳腺症、 卵巣のう腫…等
3 過去、障碍者手帳の交付を受けたことがある。もしくは、現在申請中である
4 下記の状態に該当する
- 矯正しても左右いずれかの視力が0.2以下
- 手、足、指の欠損や機能障害
- 聴力、言語、そしゃく機能の障害
- 背骨(脊柱)の変形や障害
これらの告知事項に「はい・いいえ(あり・なし)」で答え、「はい(あり)」の場合は詳細を記載していきます。「はい(あり)」があれば即座に団信に加入できなくなるものではなく、保険会社が病状や治療の状況など鑑み、総合的に加入の可否を判断します。
判断材料として、持病や既往歴があるときに医師の診断書を求められることもあります。
さらに、上記の告知事項は通常の団信に加入する場合の例です。団信の保障にがんや三大疾病保障などの特約を付帯するときは、別途健康診断が必要になることがあります。
厳密には、金融機関が提携している生命保険株式会社によって内容は異なります。特定の住宅ローンの団信に加入できなかったときも、他の住宅ローン団信に加入できる可能性がありますので、一回の審査であきらめないことをおすすめします。
健康状態が不安な時の住宅ローンの選択肢
通常の団信に加入できなかった場合は、主に2の選択肢があります。
選択肢1 ワイド団信に加入する
ワイド団信とは、通常の団信よりも加入要件が緩和された団信です。
持病や既往歴のある人でも加入しやすい団信ですが、一定の要件はありますので、誰でも加入できるとは限りません。
また、取り扱い自体が少ないですので、健康状態に不安があるときは、住宅ローンを探し始める当初から「ワイド団信の有無」に注目していきます。
さらに、ワイド団信では団信保険料かかります。
基本的な保障の団信では、保険料は発生しないのが一般的です。しかしワイド団信の多くは、金利上乗せという形で保険料が発生するので注意します。
金利の上乗せ幅は0.3%程度で、その額はそう大きなものではありません。
仮に3,000万円を金利1%(全期間固定金利)で35年返済する場合、毎月返済額は8.5万円です。
ワイド団信により金利が0.3%プラスされたとしても毎月返済額の増加分は4,000円程度です。実質的な負担額をしっかり把握しておきましょう。
また、保障範囲も限られています。通常の団信では「がん特約」「3大疾病保障」「5大疾病保障」など、特約によって保障を厚くすることが可能ですが、ワイド団信の保障範囲は基本保障のみです。
通常の団信とワイド団信の比較
通常の団信 |
ワイド団信 |
|
取り扱い金融機関 |
原則としてすべての金融機関 |
取り扱いのある金融機関は限られる |
保険料(金利) |
基本保障はほぼ無料 |
金利が0.3%程度上乗せされる |
保障範囲 |
特約としてがん保障や3大疾病保障が付帯可能 |
基本保障のみ |
※基本保障とは、主に死亡・高度障害状態
■選択肢2 フラット35を利用する
全期間固定金利のフラット35なら、団信の加入は任意になります。ただし、団信に加入せずに住宅ローンを組むことは大きなリスクがあります。
団信付加入で住宅ローンを組む場合は、「団信に代わる民間保険に加入している」もしくは「住宅ローン残高に相当する額の預貯金がある」ことが前提条件でしょう。
フラット35において団信に加入しない場合は、金利が0.2%引き下げられます。
先ほどと同じく「借入総額3,000万円」「35年返済」のケースで計算すると、毎月返済額の負担軽減額は3,000円程度です。
ワイド団信に加入せず毎月保険料が3,000円同程度の民間保険に加入するならば、負担は変わらず同じ保障を得ることができます。
すでに加入済みの保険があればそれを活用してもいいでしょう。なお、民間の生命保険でも、保険料は割高になりますが引き受け要件緩和型保険型の保険があります
団信に代わる民間保険に加入している場合も、保険金のみをあてにするのは危険でしょう。
保険金が手元に届くまでには一定のタイムラグが発生しますので、手元資金にゆとりが必要です。例えば生命保険の死亡保険金の場合、保険金が手に入るまでの目安は次の通りです。
- 請求に必要なすべての書類が保険会社に到着した日の翌営業日から数えて5営業日以内
- ただし、医療機関、警察などへ支払いに必要な事実確認をすべきときは、その確認が終了したとき
事実確認がある場合、保険金の支払いまでに1カ月程度かかることもあるので注意します。
■団信の告知義務違反のペナルティ
絶対にやってはいけないのが、団信における虚偽の告知です。
虚偽の告知を行うと次のようなペナルティが課される可能性があります。
- 団信契約を解除される
- 万が一契約者が死亡したとしても保険金が支払われない
虚偽の告知で運よく団信が通ったとしても、後に団信契約を解除されると、数千万円の借金を背負うことになりかねません。
世帯主が死亡した場合に団信による保険金が受け取れないと、残された家族が大きな借金を背負うことになります。
もしも告知義務違反で団信保険料が受け取れず、住宅ローンの返済ができない場合には抵当権が実行されます。
マイホームを失うだけでも生活は大きな影響を受けますが、家の売却代金が住宅ローン残高を下回ると、不足額は残された家族の負担になります。
繰り返しになりますが、告知事項に「はい(あり)」があっても、団信に加入できないわけではありません。事実を告知しましょう。
まとめ 健康状態が悪くても住宅ローンを借りることは不可能ではない
健康状態が原因で住宅ローン審査に通らないと、ショックで落ち込んでしまうかもしれません。
しかし他の金融機関なら団信に加入できるかもしれませんし、ワイド団信を活用する、団信不加入で住宅ローンが組めるフラット35を利用するなどの選択肢があります。
あきらめずに道を探っていきましょう。
参考【住宅ローンの選び方】初心者でも迷わないための比較ポイントと必須知識を解説!

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所