(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
経済財政運営の基本方針、いわゆる「骨太の方針」には、2019年10月に消費税率を8%から10%に上げることが明記されました。
住宅は価格が大きいので、購入時に消費税が何%なのかで住宅ローンの借入額もずいぶん変わることが予想されます。
いつかマイホームが欲しいと考える人は、消費税の引き上げ前に「急いで購入しないとならない」と焦ってしまうかもしれません。
マイホーム購入を検討している人は、増税についてどう考えていけばいいのでしょうか。
消費税の増税による消費への影響
消費税増税は経済にどんな影響を与えるのでしょう。2014年には消費税が5%から8%へ引き上げられた当時、小売りの消費は増税の前後で大きく動きました。
増税前は駆け込み需要で一時的に消費が増えましたが、その後一転して「買い控え」が起こったのです。
住宅についてはどうでしょう?経済産業省の「住宅取引と住宅産業の動向」によると、2014年の消費税増税時には、やはり販売戸数が減少しました。
小売りに関しては事前のまとめ買いができますが、住宅はそうではありません。これは俗にいう「消費の前倒し」でしょう。
ただ、住宅は価格が大きく、安易に購入を前倒しすると、返済計画が狂う可能性があります。
特に住宅ローン締結前に複数の決済がある注文住宅は、自己資金が多く必要とされます。
資金が十分に用意できる前に購入に踏み切ると、現金が不足することも考えられるので、資金繰りにについてしっかり検討したうえで購入(建築)に踏み切りましょう。
なお、消費税増税後は住宅価格の上昇もあったようです。原因のひとつに消費税増税による材料費・人件費等の高騰があるとされています。
しかし住宅販売は、地価や、為替による輸入コストなど消費税以外の要因も考えられるため、「価格の上昇」は消費税増税とはやや距離を置いて考えたいです。
「消費税10%」が住宅購入に与える影響は
消費税の増税と住宅購入の関係をもう少し詳しく見てみましょう。法律では消費税が課税されない「非課税取引」が定められていますが、土地はその対象です。
土地の購入では消費税がからないため、土地代を除く「建物」部分のみ増税の影響を受けることになります。
なお住宅価格だけでなく、住宅ローンの事務手数料、家具・家電の購入代金なども消費税の影響を受けます。
消費税だけでなく金利にも注意
消費税増税前の住の購入を検討している人は、金利についても注意が必要です。
消費税と住宅ローン金利は直接的な関係はありませんが、過去の増税から、消費税が上がると景気が冷え込むことが予想されます。
景気が悪くなれば、貸出金利は下がるのが普通です。
住宅ローン金利も同じ流れなので、上がることは考えにくいです。
とはいえ、2018年すでに住宅ローン金利は最低水準となっている以上、良くて横ばいといえます。
現在の低金利はどの程度続くのかは分かりません。
しかし、低い金利水準が続いたことで、金融機関が住宅ローンで利益を出すことが難しくなっていることは知っておきましょう。
各金融機関は、手続きをネットで行えるようにしたり、ペーパーレス化でコスト削減したりしていますが、それでも採算が取れなければ金利に転嫁される可能性があります。
金利の急上昇は現実的ではありませんが、「微増」を視野に入れておくといいでしょう。
今後、少し返済額が多くなっても返せるように借入額や物件価格を見込んでおくことといいですね。
消費税の増税前は、住宅の購入時期に注意
お店で物を買う時は、レジでお金を払う時点の消費税率が適用されます。
一方、住宅購入においては、申込み日・契約日・引渡日……などいくつかの節目があります。
適用される消費税の税率はいつを基準に判断するのでしょうか?消費税課税の基準日は購入する物件の種類で異なります。
- 注文住宅の場合
原則は、2019年9月30日までに引き渡しを済ませれば、消費税は8%が適用されます。また、特例措置として2019年3月31日までに建築請負契約を済ませた場合は、引渡しが10月以降でも8%適用となります。
- 建売・分譲マンションの場合
2019年9月30日までに売買契約を済ませれば8%が適用されます。
注文住宅の場合天候で工期が遅れることがあります。
また、消費税増税前の駆け込み需要で人手不足に陥ったり、材料の調達が難しくなったりすることもあるでしょう。
そのため引渡日だけでなく、建設請負契約日を2019年3月31日までに結べば8%適用となる特例があるのです。特例の期日は条件が緩いわけではないので注意しましょう。
ひとことで「2019年3月31日までに建築請負契約を済ませた場合」といっても、請負契約を結ぶまでにもやることは多いです。
土地探しや設計、建築会社や住宅ローンの借り入れ先などたくさんのことを、請負契約の前に決めなければならないため、消費税8%での購入を考えているなら早めに動いていきます。
政府の住宅系優遇策は、住宅ローン控除とすまい給付金
価格の大きな住宅は景気を大いに刺激します。
そのため、消費税増税による住宅の買い控えは政府にとっても避けたいことです。そこで住宅に関連する減税・給付金政策が設けられています。
- すまい給付金
すまい給付金は消費税の増税による、住宅購入者の負担を軽減するために創設された制度で、住宅所得者の所得に応じて一定の給付が受けられます。
消費税8%時は最大30万円でしたが、10%時は50万円に拡充されます。受給者には所得制限があり、消費税10%時の受給要件の目安は「収入額775万円」です。
ただし、扶養家族の人数や働き方で受給できるか否かは変わってきます。
国土交通省「すまい給付金」のシミュレーションで受給要件を満たすかどうか確認してみましょう。
- 住宅ローン控除
住宅ローン控除は原則として借入額が大きい方が恩恵が多いため、消費税増税による価格の上昇を吸収してくれるかもしれません。
住宅ローン控除は、年末の住宅ローン残高の1%が10年間、所得税から控除されます。年間の控除上限は40万円なので、制度全体の最大控除額は400万円(要件を満たした住宅は500万円に引き上げ)です。
ただし、「税額控除」のため、申請者の支払った所得税額以上の控除は受けられません。なお、所得税で控除しきれない分は、一部住民税からも控除可能です。
消費税が10%になると返済額はどの位変わるか
土地代と建物代が半分ずつだとしたら課税対象は2,000万円なので、消費税は次のようになります。
消費税率 | 消費税 |
8% | 160万円 |
10% | 200万円 |
差し引き20万円の増加になります。
すまい給付金の給付金が受けとれるなら、増加分を吸収できそうですね。すまい給付金がもらえない場合は負担が大きいので、家具購入費や引っ越し費用の節約などで備えていきましょう。
事前に欲しい価格帯の値上がり高を確認しておくとどの程度節約すべきかが見えてきます。
まとめ 慌てて購入するのは避けよう
2%の増税なので、割合からいえば消費税増税の影響は限定的です。
また、すまい給付金や住宅ローン控除を活用すれば、増税が致命的なダメージにはならないはずです。
ですので、消費税だけに目を向けて「購入するかしないか」を決断するのは避けましょう。
家族との話し合いや、資金計画を優先し、自分にとってベストな時期を見極めて購入しましょう。
本記事は2018年7月時点の情報です。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所