(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
住宅ローンは自宅を担保にした借入です。もしも返済不能に陥ると、自宅を失うかもしれないリスクがあります。
リスクを抑える方法として有効なのが団体信用生命保険の特約です。
特約の三大疾病は付帯するメリットはあるのでしょうか。
三大疾病ってそもそも何?
団体信用生命保険(以下:団信)はご存じの通り、保険金額が住宅ローンの残高と連動している生命保険です。
従来は死亡や高度障害等、かなり深刻な事態を担保するものでしたが、近年は疾病時も担保する団信が増えてきました。
死亡・高度障害の保険料は通常無料ですが、疾病に対する保障は保険料を上乗せし、「特約」として付帯するのが一般的です。
三大疾病の定義は金融機関ごと
団信における三大疾病とは「がん(悪性新生物)」「急性心筋梗塞」「脳梗塞」を指します。
ただし、疾患の範囲や、「罹患した」と認められるための定義は商品ごとに決められています。
脳梗塞を例に出すと、次のような規定があります。
【団信における脳梗塞の定義(例)】
- 契約期間中に脳卒中を発病していること(ただし、契約開始以前の疾病を原因としている場合は除く)
- 診療を受けた日から(その日を含めて)60日以上、言語障害、運動失調、まひ等の後遺症が継続したとの診断されること
脳梗塞の原因が団信の契約前にある場合や、契約後の脳梗塞でも程度が基準に満たない場合は団信の適用外となります。
がんや急性心筋梗塞についても、「罹患の条件が定められている」、「契約から90日程度の免責期間が設けられている」といったケースが多いです。
特約は三大疾病のみとは限りません。
三大疾病のうち、ガンだけを対象とした「ガン特約」、逆に糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・高血圧性疾患など、より多くの疾病に対応する「7大疾病」、さらに疾病だけでなく入院やケガにまで対応する団信も登場しています。
加入の是非を検討するときは、支払い要件や保障範囲をよく確認しておきましょう。
三大疾病のリスクは
三大疾病による日本人の死因は第1位~3位までを独占しています。
三大疾病で死亡した人の割合を合計すると56.6%と過半数になるのです。
さらにこれは乳幼児から100歳以上までの全年齢の人を対象とした数字です。
40代以降では三大疾病を原因とした死亡割合がより高い傾向にあります。
【参考:死因順位・割合(全年齢における割合)】
第1位 悪性新生物 30.1%
第2位 心疾患 15.8%
第3位 脳血管疾患 10.7%
第4位 肺炎 9.8%
第5位 老衰 3.4%
疾病の場合は死亡リスクだけでなく、治療費についても留意したいです。
疾病の状態によって入院期間や治療の内容は異なるので一概に「入院・治療にいくらかかる」とはいえないため、ここでは平均額をご紹介します。
入院時の1日あたり自己負担費用
【1日あたりの自己負担費用:平均額】
1日あたり平均額 19,835円
【1日あたりの自己負担費用:割合別】
第1位 10,000~15,000円未満 24.5%
第2位 20,000~30,000円未満 14.1%
第3位 7,000~10,000円未満 13.7%
※高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額
※治療費・食事代・差額ベッド代・交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類・日用品費などを含む
出典生命保険文化センター|1日あたりの医療費の平均は約2万円
平均額は約2万円となっています。
同じく生命保険文化センターによると35歳~65歳未満における、がんの平均的な入院日数は13~17日程度です。同じく心疾患では9日、脳血管疾患では46.9日となっています。
もしも脳血管疾患で平均的な日数入院したら約93万円(19,835円×47日)かかることになります。
もちろん、通常の医療保険や職場の傷病手当金(※)などの給付はあるでしょう。
一しかし毎日2万近い出費が発生すると考えると、住宅ローンの返済に影響する可能性があります。
やはり入院への不安は大きいといえそうです。
※傷病手当金 健康保険加入者が病気やけがで仕事を休んだときに、賃金の約3分の2が最長1年6か月受け取れる制度
三大疾病の負担感は大きい?小さい?
特約保険料を無料とする団信も増えつつありますが、それでも大多数の特約は保険料の負担があります。
保険料の目安を金利でいうと、0.2~0.3%程度の上乗せです。
この上乗せにより、毎月の返済額はどの程度増えるのでしょう。
いくつかのパターンで比較してみます。
【ケース1】
借入額 3,000万円
ベース金利 2.0%
返済期間35年
金利上乗せなし(ベース金利) | 金利上乗せ0.2% | 金利上乗せ0.3% | |
適用金利 | 2% | 2.2% | 2.3% |
毎月返済額 | 10万円 | 10.3万円 | 10.5万円 |
ベースとの差額 | ‐ | 3,000円 | 5,000円 |
【ケース2】
借入額 2,000万円
ベース金利 1.8%
返済期間35年
金利上乗せなし(ベース金利) | 金利上乗せ0.2% | 金利上乗せ0.3% | |
適用金利 | 1.8% | 2.0% | 2.1% |
毎月返済額 | 6.5万円 | 6.7万円 | 6.8万円 |
ベースとの差額 | ‐ | 2,000円 | 3,000円 |
通常保険との比較
金利0.2~0.3%アップすると、数千円単位で返済額が変わるようです。
この額を少ないと感じるか、多いと感じるかは人それぞれだと思います。
判断材料として、通常保険の保険料はどの位か知っておくといいでしょう。
団信の基本保障は生命保険ですので、生命保険料で比較していきます。
生命保険の保険料
【前提条件】
年齢:35歳
保険期間:30年
性別:男性
死亡保険金:3,000万円
この条件の場合の毎月保険料
A社 | 8,275円 |
B社 | 6,670円 |
この条件ですと通常の生命保険のほうが高いようです。
ただし、団信は「保険金額=住宅ローンの残高」なので返済が進むと保険金額が少なくなりますが、通常の生命保険は保険期間内の死亡であれば額は一定です。
返済が進むと保険金額が自動的に少なくなる団信は合理的分、割安な保険料になっています。
なお、医療保険は入院日額や手術一時金の金額、先進医療保険の有無など、保障内容によって金額が大きく変わるため比較しにくいです。
難しい場合は、無理に保険料を比較する必要はありません。
現在の保障内容が十分かどうか確認し、不足があれば団信の特約を検討してみましょう。
三大疾病の必要性が高い人
保険料の割安感からいうと、加入して健康なまま返済を終える可能性を考えても三大疾病特約があったほうがいい気がします。
しかし返済の負担をできる限り抑えたい場合は、たとえ割安でも保険料の負担を避けたいはずです。
そういった人は付帯の有無をどう判断すべきでしょうか。
そこで特約の必要性が高いケースをいくつかご紹介します。
保険をスリム化したい
通常の保険の保険金額や保障内容が十分であれば、団信特約の必要性は低いです。
しかし住宅購入を機に保険を見直したいなら話は違います。
団信に加入することで通常の保険の保険金額を削ることができるかもしれません。
保険をスリム化したい場合は団信に加入したうえで保険を見直してみるといいです。
完済年齢が高め
罹病リスクは年齢が上がるほど高くなります。
既述の厚生労働省による「死亡順位」によると悪性新生物を原因とした死亡割合は50~55歳未満で40%になります。
総年齢の平均割合は約30%でしたので、罹患の可能性が高くなっていることが分かります。
少なくとも、50代で住宅ローンの返済が半分程度に減っているといいですね。
シングルインカム
共働き世帯の場合、現金収入の負担を分けあうことができますが、シングルインカムの世帯は世帯主が一手に責任を引き受けることになります。
シングルインカムの家庭で世帯主が病気にかかると、収支状況が一気に悪化する可能性があります。
そんなとき、住宅ローンの返済がなくなればかなり家計が助かるでしょう。
これらの条件に当てはまる世帯は、毎月返済額が多少上がっても特約を付帯しておくとリスク回避につながります。
まとめ 特約付帯のチャンスは加入当初だけ!不安なら要検討
団信は住宅ローンの申込時に内容を確定させます。まれに後に特約を追加付帯できる団信もありますが、大部分は後から特約を足すことはできません。
もし後から特約を追加できるシステムだったとしても、健康でなければ付加できません。
後で後悔しないために、最初に必要性をよく考えて決めることが大切です。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所