(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
ふるさとや思い入れのある地域を応援したり、お得に地域の特産品等を入手したりできる制度として、ずいぶん定着してきた「ふるさと納税」。
利用している人も多いかと思いますが、住宅ローンを新たに組む人にとっては住宅ローン控除との関係が気になること思います。
各制度のしくみや併用の可否をご紹介します。
住宅ローン控除のしくみ
最初に住宅ローン控除のしくみをおさらいしましょう。
住宅ローン控除とは、所得税が控除されることで、年末の住宅ローン残高の1%が控除額となります。最大で10年間控除を受けることができ、各年の最大控除額は40万円です。
【住宅ローン控除の控除額と主な要件】
適用期日 |
平成26年1月1日から平成33年12月31日まで |
最大控除額(10年間合計) |
400万円(40万円×10年)※ |
控除率 |
1%(年末の住宅ローン残高に対して) |
住宅要件 |
床面積が50m2以上 |
住宅ローン要件 |
入金の償還期間が10年以上 |
※認定長期優良住宅や認定低炭素住宅など、一定の要件を満たした住宅はその年の控除限度額が50万円にひきあげられます
原則として、自身の所得税額以上の額を控除することはできません。
しかし、所得税で控除しきれなかった分は、一部住民税からも控除可能です。
住民税から控除できる額は「前年分の所得税の課税総所得金額等の7%(136,500円が限度額)」となります。
【住宅ローン控除の例】
- 年末の住宅ローン残高 3,000万円
- 所得税額 25万円
この場合、控除できるのは【3,000万円×1%=30万円】ですが、支払っている所得税額が25万円なので、5万円余ってしまいます。
そこでこの5万円については、「前年分の所得税の課税総所得金額等の7%(ただし136,500円が限度)」まで住民税からもが控除できるのです。
給与所得者の住宅ローン控除の流れ
住宅ローン控除の適用を受けるには、翌年の確定申告が必要です。
確定申告をすると、まずは所得税の還付が受けられます。
住民税は翌年度分からの適用となります。
確定申告が必要なのは初年度のみで、2年目以降は勤め先の年末調整で対応できます。
年末調整ならば、還付金は12月分の給与に上乗せされるのが一般的です。
ただ、勤務先によっては給与とは別に渡されることもあるので会社に確認するといいでしょう。
ふるさと納税のしくみ
ふるさと納税とは現在住んでいる自治体以外の地域に税金を納めることです。
納税すると、所得税・住民税の控除が受けられます。
税制上のメリットだけでなく自分の出身地や興味のある自治体を納税によって応援できることや、自治体からお礼の品が受けとれるのも大きな魅力です。
複数のメリットがるふるさと納税ですが、ここでは住宅ローン控除との関係性を考えるために、ふるさと納税における所得税・住民税控除のしくみについて見ていきましょう。
ふるさと納税の流れ:給与所得者の場合
- ふるさと納税を行う
- 翌年に確定申告をする(ワンストップ特例制度なら申告不要※)
- 確定申告により控除額が決定
- 翌年支払う所得税・住民税が減額される
※ワンストップ特例については後述
会社員ならば、所得税・住民税は毎月の給与から天引きという形で支払っています。
しかしふるさと納税を利用すると自己負担2,000円を除いた金額が所得税・住民税から控除可能です。
確定申告は翌年行うため、前年支払った税金の「納めすぎ」が発生しますが、所得税分はその年の所得税から控除(還付)され、住民税分は翌年度の住民税から控除(住民税の減額)されます。
住宅ローン控除とふるさと納税を併用する場合の注意点
結論として、ふるさと納税と住宅ローン控除は併用可能です。
しかし、どちらも控除である以上、併用することでどちらかの控除分がなくなってしまうのではないか?そう考える人も多いでしょう。
せっかくの控除、できることなら両方メリットを享受したいですね、2つの制度を併用するとどのようになるのか解説します。
住宅ローン控除とふるさと納税の違い
「ふるさと納税」と「住宅ローン控除」の2つは控除の方法に大きな違いがあります。
ふるさと納税は「所得控除」であり、納税計算のもとになる課税総所得金額を抑えることができます。一方住宅ローン控除は、いったん確定した所得税額を引くことができる「税額控除」なのです。
【住宅ローン控除とふるさと納税の特徴】
- 所得控除(ふるさと納税)
税額計算のもとになる所得額を控除できます。所得税は所得が多いほど税率が多い「超過累進課税」なので、所得額を抑えることにより税額も低くなります。
- 税額控除(住宅ローン控除)
いったん決まった税額から、「年末の住宅ローン残高×1%」をそのまま控除できます。
ここで、併用について懸念を持った人もいるかと思います。ふるさと納税により税額が低くなると、住宅ローンで控除できる全額が小さくなってしまうのでは?という疑問です。
確かに、ふるさと納税しないほうが所得税額が大きくなるので、住宅ローン控除を多く控除できるかもしれません。
※分かりやすく考えるため、所得税のみで話を進めていますが、前述の通り所得税で住宅ローン控除を引ききれなかった場合は住民税からも一部控除することが可能です。
その場合、ふるさと納税の所得控除により、住民税額も小さくなるので、住民税分の住宅ローン控除も少なくなる懸念があります。
しかしこれらの問題が生じるのは「住宅ローン残高の1%」が所得税額を上回っているときのみです。
逆に「住宅ローン残高の1%」が所得税額以下であり、ふるさと納税で所得税額が減ってもなおすべて控除しきれる可能性もあります。
あまり心配しすぎることはないでしょう。
ふるさと納税と住宅ローン控除の併用で注意すべき人
ふるさと納税と住宅ローン控除を併用することで、住宅ローン控除の対象となる所得税(住民税)が少なくなってしまうこともあるかもしれません。
注意したほうがいいのは、住宅ローン残高の割に納税している所得税額が少ない人です。
最近住宅を購入した、もしくは住宅購入間近……という人は、年末の「住宅ローン残高の1%」がどのくらいになるか算出してみましょう。
所得税は、給与明細をみれば年間どの程度か、おおよその見当がつくでしょう。2つを見比べてみてください。
ふるさと納税のワンストップ特例を活用する方法
もしも「支払っている所得税よりも住宅ローン残高の1%のほうが大きくなりそう」な場合、住宅ローン控除が使い切れず余ってしまうのでしょうか?
そんな時はワンストップ特例を利用する方法があります。
ワンストップ特例とは、確定申告をすることなく住民税の控除が受けられる制度です。
この特例の適用を受けるときは、所得税からの控除は発生せず、ふるさと納税の翌年、6月以降の住民税が控除(減額)されることになります。
【ワンストップ特例の適用要件】
- 確定申告が不要な給与所得者
- ふるさと納税の寄付先が5団体以内
ワンストップ特例を利用すれば、住民税だけが控除されるので、所得税は控除の対象となりません。
所得税の控除がメインの住宅ローン控除とは住みわけができます。住宅ローン控除の初年度は確定申告をすることになるので、初年度は要件を満たさないことになりますが、2年目以降はワンストップ特例を活用することで、2つの制度を併用して効果を打ち消すことを避けることができるでしょう。
まとめ 併用は可能だが、納税額と住宅ローン控除によっては注意が必要
どちらも税制上の控除であり、併用しても支出が増えるようなことはありませんが、メリットを享受しきれない可能性はあります。
納税額と住宅ローン控除額が大きい人は住宅ローン控除が、控除しきれない場合ですね。
ただしそのケースでも、ふるさと納税のワンストップ特例を利用すれば、問題なく併用ができるので安心してください。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所