(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
2018年は一部の住宅ローンで金利が上昇しました。
上昇幅は小さいですが、現在住宅ローンを返済中の人で変動金利を選択している人は不安が大きいかもしれません。
さらに金利が上昇した場合、返済にどのような影響を与えるのでしょう。
また、金利上昇による家計ダメージを抑える方法はあるのでしょうか。
金利上昇の対策をご紹介します。
住宅ローンの変動金利における金利上昇リスクとは
住宅ローンの変動金利は市場状況に応じて適用金利が変わります。
しかし、住宅ローン金利は低金利時代が続いており、金利が上がることに実感のない人も多いようです。
住宅金融支援機構の「民間住宅ローン利用者の実態調査」によると、変動金利を選択する人は全期間固定金利・固定期間選択型を抑えて最多となっており、全体の5割超の人が変動金利を選んでいます。
一方で変動金利の金利リスクについて、変動金利を選んだうちの4~5割の人が「理解しているか不安」または「よく(全く)理解していない」と回答しています。
出典住宅金融支援機構 2017年度民間住宅ローンの実態調査【民間住宅ローン利用者編】(第2回)
変動金利の金利リスクは、言うまでもなく適用金利が上昇する可能性があることです。
その事を知っていても、どのように適用金利が変わるのか、またどの程度返済額に影響するかなど、仕組みを理解していない人が多いようです。
具体例でご紹介していきます。
金利が上がると返済にどう影響する
市場金利が上昇したからといって、直ちに住宅ローン金利が上がるわけではありません。
変動金利は通常、市場金利合わせて半年ごとに金利を見直します。
また、見直し金利が返済額に反映されるのは5年ごとです。
つまり市場金利が上がっていても、返済額が上昇するまでに最長5年間の猶予があるということです。
変動金利の人が最初に知っておくべきなのは、自身の住宅ローンの金利切り替え時期です。返済中の住宅ローンの金利状況はインターネットで確認したり、直接借入先に問い合わせてみるといいでしょう。
金利の上昇が返済額にどの程度関わってくるのか、具体例で見てみましょう。
以下の条件で、金利が上昇した場合の「毎月返済額」「総返済額」の違いをご紹介します。
【条件】
- 返済残高 2,000万円
- 返済期間25年
- 金利 現状0.5%
- 現在の毎月返済額 約7万1,000円
事例1 | 事例2 | 事例3 | |
金利条件 | 25年で1%上昇 | 25年で1.5%上昇 | 25年で2%上昇 |
25年目の金利 | 1.5% | 2% | 2.5% |
25年目の毎月返済額 | 7万6,230円 | 7万9,009円 | 8万1,881円 |
総返済額 | 約2217.6万円 | 約2264.1万円 | 約2311.9万円 |
※元利均等返済・ボーナス払いなし
※金利は25年間で平均的に上昇するとする
事例1の1.5%上昇する例なら、最終的な毎月返済額の増額は約5,000円。
2%上昇する想定の事例3でも、最終的な毎月返済額の増加は約1万円です。
負担は重くなりますが、少しずつ上昇していくのなら他の出費を見直すことで調整可能な額でしょう。
ただし、上記の例は、25年かけて1~2%上昇した場合です。
短期間、かつ返済の早い時期に上昇すると、準備期間がなく家計へのダメージも大きいです。
急激な金利上昇が起こったときに注意したいこと
日本経済の現状を見るに、数年の間に金利が倍になるような金利上昇は考えにくいです。
しかし、もしも急激に金利が上がる事態になったら、住宅ローンの返済はどのようになるのでしょうか。
実は急激に金利が上昇しても、返済額は急上昇しません。
変動金利の返済額が増える場合、従前の返済額の1.25倍までとのルールがあるからです。
ただし、本来なら金利上昇に合わせて返済額がもっと増えるところを1.25倍までに抑えているため、返済金の多くが利息にまわってしまいます。
つまり、返済してもなかなか住宅ローンが減らない状態です。
場合によっては返済金のすべてが利息に充てられ、返済しているにもかかわらず住宅ローン額が変わらない(もしくは増えていく)ことも考えられます。
返済期間や借入額によって異なりますが、当初1%未満の金利だった住宅ローンが、5年後に3%にまで上昇するようなケースは1.25倍ルールが適用されてしまう金利上昇となりそうです。
目安として覚えておきましょう。
住宅ローン返済額が増えると困るのは
1~2%金利が上昇しても、家計を工夫することで毎月返済額の影響を吸収することは可能です。
しかし家計のやりくり上、注意したい世帯が2つあります。
1 これから教育費等の負担が増える世帯
小さい子供がいる世帯では、今後教育費の増加が予測されます。たとえ数千円の増加でも、家計全体で支出が大きくなる時期には返済が難しくなるかもしれません。
2 完済年齢が退職後まで続く世帯
退職後も住宅ローンの支払いが続く世帯もあります。
退職後も契約社員やパート契約で働き続けることができる人なら現実的な返済プランでしょうが、年収は半分程度になってしまうケースが多いです。
年収が減った状態では、返済金額の増額が少しでも、やりくりが苦しくなってしまう可能性があります。
このような返済に不安がある世帯では少しの金利上昇が家計に大きなダメージを与える可能性がありますので、金利動向に注視しなければなりません。
普段から金利上昇に備え、家計に余裕が持てるようなやりくりを心がけておきましょう。
住宅ローンの金利が上がったときの有効な対策
変動金利で返済中に金利が上り、返済が苦しくなりそうな場合の、有効な対策が繰上返済です。
繰上返済には2種類の返済方法(※)があることをご存じでしょうか。
1 返済額軽減型
毎月の返済額を少なくします。返済期間はそのままですが、毎月の返済負担が軽くなります。
教育費の増加などで、毎月の返済が苦しくなりそうな場合に有効です。
2 返済期間短縮型
返済期間を短くします。毎月の返済額はそのままですが、完済年齢を早くすることができます。
返済期間を短くしたい場合に有効です。
2つのうち、総返済額を抑えることができるのは「2.返済期間短縮型」です。
しかし金利上昇の対策として重要なのは総返済額を抑えることではありません。
総返済額にこだわらず、自身の金利上昇リスクに合わせて活用しましょう。
※一部繰り上げ返済においての方法です。一括(全額)繰上返済は考慮しておりません
住宅ローンの返済方法を変える手段は有効か
先ほどの「民間住宅ローン利用者の実態調査」によると変動金利選択中に金利が上昇した場合、「固定金利への借換えが有効」と考えている人が12.1%にのぼります。
たしかに、金利上昇が続くと予想されるときに「固定金利への借換え」は有効です。
しかし全期間固定金利型(もしくは固定期間選択型)に借換えてしまうと将来、金利が下がったときの恩恵も受けることができなくなります。
「今後金利は下がらない」との信念がないと、固定金利への借換えに踏み切るのは難しいといえます。
また、変動金利は固定金利よりも金利水準が高いので、より高い金利へ借換えることになる可能性が高いです。
もちろん、借り換え手数料も別途発生します。
これらの理由により、借入当初「金利が上がったら固定金利に仮換えすればいい」と考えていても、実際に借換えを実行するのは心理的にも経済的にも難しいのです。
繰上返済の有効性と実行のコツ
固定金利の借換えは当初考えているよりも心理的・経済的ハードルが高く、金利上昇に備える手段として一番行いやすいのは繰上返済といえます。
繰上返済を行ううえで大切なことは、繰上返済に使える余裕資金を常に確保しておくことです。
金利が低いうちから金利上昇に備えて、繰上返済資金を積み立てておきたいです。
現金で資金を作っておけば、金利が上がらなければ他の用途に活用できる点もメリットです。
まとめ
多少の金利上昇で毎月の返済額が大きく変わることは考えにくいです。
ただし家計が苦しく、現在の返済額でギリギリの世帯や、将来的な返済に余裕がない人は注意が必要です。
危ないと感じたら、繰上返済の準備を早い段階で始めておくといいでしょう。
借換えを検討している人は、タイミングや諸経費についてしっかり考え、強い意志で実行に臨みましょう。
対策さえわかっていれば、金利上昇もそう怖いことではないはずです。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所