(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
住宅購入の際、自分にとって適正な住宅価格がいくらなのか、疑問を持つ人は多いです。住宅ローンは返済しなければならないので、返済できる額を見極めたいと考えるのが通常でしょう。
住宅ローンの返済負担を世帯年収から考えることで返済の安全性を判断することもできます。どのように考えていけばいいのかご紹介します。
住宅ローンの「返済負担率」は家計の何%が基本?
家計に占める返済金の割合を「返済負担率」といいます。
返済金が多いと、生活費や圧迫されて家計が回らなくなります。
そのため住宅ローンを含めた返済負担率は20~25%以内としたいです。
求め方は「年間返済額÷額面年収×100」。ここでは住宅ローンの返済金のみで考えていきますが、実際に率を算出する際は、マイカーローンや奨学金の返済などその他の借入れも母数に含めて考えます。
20~25%という返済負担率から具体的な年間返済額を算出してみましょう。返済負担率20%・25%における年間返済額を、手取り年収ごとにまとめました。
【返済負担率】
手取り年収 |
返済負担率ごとの年間返済額 |
|
20% |
25% |
|
300万円 |
60万円 |
75万円 |
500万円 |
100万円 |
125万円 |
700万円 |
140万円 |
175万円 |
800万円 |
160万円 |
200万円 |
図表の手取り年収500万円の部分を見ると、返済負担率20%で年間の住宅ローン返済は100万円、25%だと125万円で、年間返済額は25万円の差額となっています。
住宅ローンを35年で組むとすると、35年間の差額合計は875万(毎年25万円×35年)円です。返済負担率が20%か25%かで、返済額がかなり変わってくるので、購入前に「毎年の返済は世帯年収の〇〇%以内」と決めておくと安心です。
返済負担率を決めるときのポイント
返済負担率の上限はどのように決めればいいでしょうか?安全性を重視するなら、返済負担率は20%以内としたいです。
ただし、今後世帯主の収入アップが確実である、妻の産休が終わり、世帯収入が増えるなど、家計にとって良い材料が多い人は借入額にゆとりを持ってもいいでしょう。
逆に教育費の負担もある世帯は借入額の上限を厳しく考えるべきです。
教育費は、進学先や習い事・塾の費用にもよりますが、公立の中学・高校では年間約50万円が目安額となります。
例えば、子供が2人で、公立の中学・高校に在籍していると教育費の負担の目安は毎年100万円(50万円×2人)です。
年収500万円・住宅ローンの返済負担率が25%(125万円)の世帯だとすると、教育費と住宅ローンの返済だけで45%です。(教育費の詳細は後述します)
【例:中高生の子供が2人いる世帯における、住宅ローンと教育費の負担】
支出項目 |
年額 |
年収に占める割合 |
住宅ローン |
125万円 |
25% |
第一子教育費 |
約50万円(公立高校) |
20% |
第二子教育費 |
約50万円(公立中学校) |
|
合計 |
225万円 |
45% |
上記の例のように、世帯年収500万円のうち住宅ローンと教育費に225万円を充ててしまえば、残りの275万円弱でその他の支出をすべて賄うことになります。
ここから固定資産税を支出してしまうと、子供2人いる世帯の生活費としては苦しい印象です。
教育費の負担が重い時期は家計が赤字になることが予測されます。ここを乗り切るためにはある程度の貯蓄が要りそうです。
ご自身の世帯に「良い材料」と「不安な材料」どちらが多いのかを確認しながら返済負担率の上限を決めていきましょう。
返済負担率30%はどうなのか
中には「返済負担率は30%までなら大丈夫」と聞いたことがある人もいるかもしれません。
確かに、フラット35で公開されている返済負担率の基準は「30%以下(年収400万円未満の場合)」となっています。しかし、30%の返済負担率はややリスクが高いです。
というのも、現代では晩婚化や出産年齢の高齢化が進んでおり、住宅購入時期が遅くなっています。
実質的な返済期間が35年よりも短いケースが多いことにくわえ、ボーナスカットの不安や退職金の受取りも確実ではありません。それらから、返済負担率30%とできる人は少数派と考えましょう。
住宅ローン「年収の5倍以内」は本当か
返済負担率とともに年収倍率も借入金額の妥当性を計る基準になります。
年収倍率は借入額が年収の何倍なのかを示す数字です。
一般に「借入額は年収の5倍以内」ともいわれています。
手取り年収500万円で考えると年収5倍は2,500万円(500万×5倍)ですが、毎月の返済額はどの程度になるのでしょうか。
【2,500万円借り入れた場合の金利ごとの返済額(返済期間35年)】
毎月返済額 |
年間返済額 |
返済負担率 |
|
金利1.2% |
7.7万円 |
92.4万円 |
18.4% |
金利1% |
7.1万円 |
85.2万円 |
17% |
金利は全期間固定・ボーナス返済なし
返済負担率からみると、双方20%を切っているので「年収の5倍以内」の借入額は安全性が高いように見えます。
ただし、手取り年収が変わってしまうと年収倍率による試算は意義を失ってしまいます。
ボーナスによる変動が大きい場合や、転職を考えているような場合は注意しましょう。
みんなの返済負担率と年収倍率は
2016年度 フラット35利用者調査によると、返済負担率は25%未満が主流です。
土地付注文の場合は土地代が加算されるので25%以上の割合がやや多くなりますが、(土地付ではない)注文住宅・建売住宅、マンションでは15~25%未満が中心で、堅実さが垣間見えます。
年収倍率は6倍台が多くなっています。土地付注文住宅や首都圏のマンション購入世帯は7倍になっており、やや高い印象です。
「返済負担率は低め」と「年収倍率は高目」と、数値に若干の差があります。返済負担率の要素には住宅ローン以外のローンも含まれるため、他のローンを利用しないことで率を下げることができるからかもしれません。
2016年度 フラット35利用者調査より※新築物件の場合のみ参照
より安心して借入額を考えるために
「返済負担率」と「年収の5倍以内」。2つの基準はあくまで目安であり、2つを満たしているから安心なのかというと、そうではありません。
例えば、どちらの基準にも住宅諸経費は考慮されていません。住宅諸経費とはマンションにおける修繕積立金や管理費や、マンション・一戸建てを問わず発生する固定資産税などのことです。
修繕費の負担を忘れずに
修繕積立金については、将来的な値上げが決定していることがあるので今後値上がりの予定がないか確認しておきたいです。
一戸建てを購入する場合も、10年~15年程度経過すると修繕が必要になってきます。
外壁塗装であれば10~15年後が一つの目安になります。
外壁塗装の総費用は壁面や屋根の面積、塗料の材質によって異なりますが、100万円以上はかかると考えておきたいです。
仮に外壁塗装の費用が「15年後に100万円」だとすれば、毎年約7万円を積み立てていく計算です。
そういった費用の余裕があるかどうか含めて、返済していけるかを考えていきます。
ライフプランから考えたい住宅ローンの借入額
家族間で確認しておきたいのが、家族ごとのライフプランです。
教育費の総額や老後資金の必要額は家族ごとに異なります。
住宅ローンが完済できても、老後の生活が困窮してしまっては、やはり住宅ローンの負担が大きかったといわざるを得ません。
教育費が増えたときの負担感は先ほども触れましたが、先の例は公立の中学・高校にそれぞれ子供が在籍しているときのものでした。
在学している学校が私立であったり、公立であってもお金のかかる部活に入っていたりすれば話は変わってきます。
1年間にかかる教育費がどの程度なのか、進学先ごとにご紹介します。
<1年間にかかる教育費>
【幼稚園】
- 公立約23.4万円
- 私立約48.2万円
【小学校】
- 小学校は公立約32.2万円
- 私立約152.8万円
【中学校】
- 公立約47.9万円
- 私立約132.7万円
【高校(全日制)】
- 公立約45.1万円
- 私立約104万円
文部科学省「成28年度子供の学習費調査」より
※上記データは「学校教育費」「学校給食費」「学校外活動費」を含めたものです。学校外活動費には就学準備のためのランドセル・学習机・制服等の購入代金も含んだ平均額です
<私立大学の学費(初年度)>
- 文科系学部115.1万円(うち入学金23.5万円)
- 理科系学部 151.8万円(うち入学金25.6万円)
- 医歯系学部 479.3万円(うち入学金101.3万円)
- その他学部 145.5万円(うち入学金26.6万円)
文部科学省「平成28年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」より
データから見ると、公立であれば高校まで年間の負担は50万円以内に抑えられますが、私立にすると小中高と年間の教育は100万超えとなりそうです。
私立大学の学費もかなり大きいことがわかります。こういった教育費とともに、老後資金が用意できるのかどうかも考えていきましょう。
まとめ 家計全体で住宅ローンを考えよう
世帯年収を基準とした「返済負担率」「年収倍率」を使えば、ある程度、住宅ローンの妥当額を考えることはできます。
しかし将来のかかる教育費や、退職後の生活費なども忘れてはいけません。
教育費や老後資金も並行してできるよう余裕を持って住宅ローンを組むといいですね。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所