(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
日本学生支援機構によると、同機構の奨学金利用者は平成28年度だけで131万人になります。
普及率が高いといえる奨学金ですが、その多くが返済を必要とする「借入れ型」です。
卒業後に住宅ローンを組む際、奨学金が返済途中だと、審査にも関わってきます。
住宅購入を検討している人にとって気になる、住宅ローンと奨学金の関係を解説します。
日本学生支援機構の奨学金とは
まず、奨学金の概要をお伝えします。奨学金として最大規模を誇る独立行政法人日本学生支援機構の奨学金は大きく2種類あり、「貸与型」と「給付型」で、各給付金の概要は次のようになります。
【貸与型】
- 第一種(無利息・ただし、学業成績や経済状況の選考あり)
- 第二種(有利息・ただし在学中は無利子。選考基準も存在するが、第一種よりも緩やか)
- 入学時特別増額(有利子・上記「第一種・第二種」への上乗せのみで、単独利用は不可)
【給付型】
- 給付型(返済不要だが、低所得者のみ)
給付型の奨学金もありますが所得制限があり、受給の難易度は高いです。
そのため奨学金の多くは返済が必要になりますが、金額はどの程度なのでしょう。
仮に大学4年間、毎月35,000円、第二種奨学金(金利1%とする)を受け取っていたならば、貸与総額は100万円を超えます。
卒業後から半年経過すると返済が始まり、毎月7,500円を144回(12年)に渡って返済することになります。
12年の間に結婚や住宅購入に踏み切ることもあるでしょうが、奨学金返済中に住宅ローンの利用は可能なのでしょうか。
奨学金があっても住宅ローンは利用可能
結論から言うと、奨学金の返済中でも住宅ローンを利用することができます。
しかし、審査に影響を与えることは確かです。住宅ローン審査では年収に占める総返済金の割合(返済負担率)が審査基準のひとつとなっているからです。フラット35を参考に見てみましょう。
【フラット35における返済負担率】
年収 |
400万円未満 |
400万円以上 |
総返済率基準 |
30% |
35% |
住宅ローン以外の返済額も含めて審査されるため、他に借入れがあるとその分住宅ローンを組める額が小さくなってしまうのですね。
これは奨学金だけ特別注意が要るわけではなく、家電ローンやマイカーローンなど、通常の借入にも通じます。
そろそろ家を買いたい……そう思ったら、ローンでの買い物は慎重に行うべきです。
要注意!奨学金の延滞
既述の通り、奨学金を返済中でも住宅ローンを組むことは可能です。
ただし、奨学金の返済が滞っている場合は話が違ってきます。
延滞による家計の悪影響はもちろんありますが、延滞を放置すると住宅ローンが組めない事態に陥る可能性があるのです。
奨学金を延滞するとどうなる?
住宅ローンへの影響をお伝えする前に、家計・生活への影響から解説します。
影響1:延滞金がかかる
延滞すると、最大で年10%の利息が上乗せされます。本来無利子の第一種奨学金も返済が滞ると延滞金が発生してしまうので、無利子であるメリットが享受できません。
影響2:督促される
返済の督促は文書と電話で行われます。本人だけでなく、連帯保証人、保証人にも請求がいきます。もし督促を無視していると、本人の勤務先に連絡がいくこともあります。勤務先への電話において、本人の了解なしに内容が「借金の督促」であることを明かすことはないようですが、周囲が不審に思う可能性もあります。たとえ職場の人に知られなくとも、気持ちが良いものではないでしょう。勤務先に債権回収の電話がかかってくるのは避けたいものです。
信用情報に傷がつくと住宅ローン審査へ大打撃
延滞が3カ月以上になると個人信用情報機関に個人情報が登録される可能性があります。登録される個人情報は本人の氏名、住所、生年月日に加え、電話番号や勤務先等も含まれます。また、契約の情報として、貸与額、最終返還期日、延滞、代位弁済、完済等の返還状況等も登録されてしまうのです。
登録されると、たとえ完済しても、記録がすぐには消えません。返還を完了した5年後にやっと削除されることになります。
法的措置におよぶことも
返済ができず督促を放置していると、法的手段をとられる可能性があります。強制執行として給与や財産が差し押さえられてしまうかもしれないということです。強制執行に至るまでの費用も延滞者の負担になる可能性が高いので注意しましょう。厳しいと思われるかもしれませんが、奨学金は利用者が返済することで次世代の学生が奨学金を受け取れるのです。返済金がないと、奨学金制度が成り立たなくなってしまうので、返済は不可欠なのです。
住宅ローンを検討しているなら奨学金の返済は最優先順位!
延滞すると様々なペナルティが課され、住宅ローンが組めなくなる可能性も高くなります。問題なく返済しているならば住宅ローンが組めないわけではありませんが、審査は厳しくなるので住宅ローンを検討しているなら事前に一括返済するのが理想ですね。
延滞の解決策は
一括返済が理想的で、延滞はしないのが鉄則です。しかしどうしても返済する余裕がないときはどうすればいいのでしょうか。実は、奨学金の返済には一定の返済猶予がありますので、3つご紹介します。
- 減額返還
月々の返済額が減額されます。毎月の返済額は「2分の1」または「3分の1」に減額されますが、返済の総額は変わりません。ただし、誰でも弦楽返還が適用されるわけではなく、要件と所定の手続きが必要です。
人的要件 |
災害・傷病・経済困難・失業など、返還困難などの事情により返済困難に陥った |
事務的要件 |
奨学金の返還を、金融機関の預貯金口座から自動的に引落とす口座振替(リレー口座)加入者のみ利用可能 |
手続き |
「減額返還願」の記入・願い出(要件に関する証明書も必要) |
人的要件である「経済困難」の目安は所得証明書等の年間収入金額で「325万円以下」(給与所得以外の所得を含む場合は「年間所得金額225万円以下」)です。また、延滞していると申込みできないので、延滞する前に届け出ることが重要です。
- 返還期限猶予
返済が、一定期間猶予されます。猶予された期間に応じて返還終了年月も延期されます。少しずつでも返済が進む減額返還と違い、(利子は増えませんが)元本がそのまま変わらないので、早く返済を終わらせたい人には不向きです。返還期限猶予の期間は通算10年(120か月)が上限ですが、1年ごとに願い出が必要です。
- 返還免除
基本的に返済の免除はありませんが、次のような場合には、特例として免除されます。
・本人が死亡し返還ができなくなったとき
・精神若しくは身体の障害により労働能力を喪失、又は労働能力に高度の制限を有し、返還ができなくなったとき
このように、返済が難しくなった場合は一定の猶予策があります。猶予策を活用し延滞を防ぎましょう。
就学支援金も活用しよう
奨学金はきちんと返済し、延滞を避けるのはもちろんです。ですが、奨学金を利用しない方法を考えるのも大切です。学費を援助する公的な制度をご紹介します。
高等学校等就学支援金
高等学校や専修学校高等科等に在籍している人に対し、支給されます。年収制限があり、市町村民税の所得割が30万4,200円以上(年収目安は910万円)だと受給できません。受給額可能な場合の受給額は、年収に応じて変わってきます。「公立か私立か」、「全日制か定時制か」など、就学状況によっても支給される額が異なります。
【全日制高等学校の支給額(年額)】
年収目安 |
支給額 |
年収590万円以上910万円未満 |
11万8,800円 |
※世帯主1人(サラリーマン)、主婦、子ども2人(中学生・高校生)のケースです
※年収目安は家族構成や就労形態によって異なるのでご注意ください
このほか、都道府県が主体になって行う「高校生等少額給付金」もあります。先に紹介した高等学校等就学支援金よりも支給要件が厳しいことが多いですが、お住いの都道府県に問い合わせてみる価値はあるでしょう。
高等学校における支援金は金額がそう大きくないかもしれません。しかし、こういった制度を活用し、少しでも家計を楽にする工夫が大切ではないでしょうか。大学資金を少しでも多く用意することで、大学での奨学金利用を少しでも減らすためです。
奨学金を住宅購入の足かせにしないために
奨学金を返済していても、延滞していなければ住宅ローンは組めないわけではありません。
ですが、審査は確実に厳しくなるため、奨学金は住宅購入を考え始めたら一括返済を検討してみてはいかがでしょうか。
万が一延滞すると一定期間住宅ローンが組めなくなってしまうので、十分に注意してください。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所