価格帯の大きい住宅購入においては、住宅ローンを組んで購入していくのが一般的です。
近年、住宅ローンの金利は低くなっており、この機会に住宅を購入したいと考える人も少なくないと推測します。
しかし住宅ローンには審査があります。ベンチャー企業や中小企業に勤めている場合「自身の勤務先属性では住宅ローン審査において、不利なのではないか」と気にする人もいるようです。
そこで住宅ローン審査の基本を紹介するとともに、勤務先がベンチャー企業や中小企業であることは審査に影響するのか見ていきます。
住宅ローン金利は低い水準を保っている
住宅ローンの金利水準はかつて8%を超えることもありましたが、近年は低い水準で推移しています。
特に変動金利はそれが顕著で、0.5%を切る住宅ローン商品が複数登場しています。
変動金利よりも金利水準の高い全期間固定金利でも1%台前半の住宅ローン商品が複数あります。
住宅ローン金利が低い今、金利負担を押えて住宅を購入するチャンスといえます。
しかし、金利水準が魅力的でも、審査について不安があるかもしれません。
冒頭でも述べたように、ベンチャー企業や中小企業に勤めている人が自身の勤務先属性について、「住宅ローン審査において、不利なのではないか」と懸念することは少なくないようです。
まずは住宅ローン審査の目的や審査において見られる項目などを確認しましょう。
住宅ローン審査の目的と意義
一般的には事前の「仮審査」「本審査」と2つの審査を経て住宅ローンの融資を受けられます。
仮審査と本審査の違いは次のとおりです。
仮審査(事前審査)の目的と意義
仮審査とは、融資を検討する水準に達しているかを予備的にチェックする審査です。
申込みに際して提出すべき書類はありますが、自己申告をベースにしているため本審査よりも少ないです。
また金融機関のチェックも本審査ほど厳しいものではありません。
本審査は申込み側が準備すべき書類がもっと多いですし、金融機関側もチェックに大きな手間がかかります。
そのため事前に、簡易的な審査を行うことで、審査に通る可能性が高い案件だけが本審査に進めるよう案件数を絞っておくのです。
金融機関にとっては業務効率化となりますし、申込者にとっても少ない労力で審査に通るかどうかの感触を得ることができます。
仮審査が通らなかった場合は「借入額を見直す」「他の金融機関へ申込を行う」などの対策を立てることが可能です。
本審査の目的
仮審査よりも厳密に返済能力を審査されるのが本審査です。
源泉徴収票や住民税決定通知書など、仮審査よりも多くの情報を準備・提出します。
「融資して問題ないか」「返済はなされるか」などが厳しくチェックされます。
審査機関も仮審査よりも長い傾向です。
仮審査にかかる日数は数日程度が目安ですが、本審査では一週間はかかると考えておきたいです。
ベンチャー企業や中小企業は不利なのか
住宅ローンを供給している民間金融機関を対象としたアンケートである、国土交通省の「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」から、金融機関が住宅ローン審査において「考慮する」とした項目を紹介します。
【融資を行う際に考慮する項目】
- 完済時年齢 99%
- 健康状態 98.5%
- 担保評価 98.2%
- 借入時年齢 96.8%
- 年収 95.7%
- 勤続年数 95.6%
- 連帯保証 94.2%
本調査では「勤務先の規模」は「17.9%」となっています。これを見ると、勤務先の規模は審査項目としての優先順位は高くないようです。
勤務先や年収よりも上位に挙がっているのは「完済時年齢」と「健康状態」そして「担保評価」です。それぞれ、次のような理由で重要です。
【完済時年齢】
多くの金融機関において完済時年齢の条件があります。完済時年齢は「80歳未満」とされていることが多く、完済時年齢を意識して借入期間を決定しなければならないといえます。
借入時の年齢から逆算する必要があるため「借入時年齢」も同様に重要で、「借入時年齢」は第4位に挙がっています。
【健康状態】
住宅ローン融資において、団体信用生命保険の加入が必須条件になっている金融機関がほとんどです。
そのため健康状態が悪いと融資を受けることができません。
なかには団体信用生命保険への加入が不要な住宅ローンもありますが、そのような住宅ローンは保障がない分、審査が全体的に厳しくなると推測されます。
【担保評価】
住宅ローンにおいては、原則として購入するマイホーム(土地含む)を担保に入れます。
金融機関にしてみれば担保は、住宅ローン契約者が返済できなくなった場合に債務を回収するための重要なものです。
万が一の時に債務回収できるだけの価値があるかあるか、厳格に見極められます。
つづいて、第5位に「年収」第6位に「勤続年数」が挙がっています。
勤務先の規模よりも「いくら稼いでいるのか」「継続して勤務しているのか」などが重視されているようです。
この項目からはベンチャー企業や中小企業といった企業規模の外形よりも、年収や勤続年数といった内実が重要である考えられます。
その意味では、ベンチャー企業や中小企業だから極端に不利になるとはいえません。
ただしベンチャー企業の場合はそもそも創業から年数が経っていないこともあるでしょう。
その場合は勤続年数も短くなるめ、そのようなベンチャー企業は仮に年収が高くとも審査が厳しくなる可能性が高いことを知っておきます。
ベンチャー企業や中小企業で注意すべきは?
金融機関によって差はあるでしょうが、国土交通省の「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」の結果から見れば、ベンチャー企業や中小企業だからという理由だけで大きく不利になる可能性は低いといえます。
しかし、大企業と比較すると不利な面もあるでしょう。
ベンチャー企業や中小企業が特に注意すべき点を紹介します。
ベンチャー企業や中小企業における「年収」についての注意点
大企業は不景気や売り上げの減少など、多少業績が悪化しても持ちこたえるだけの資本があるでしょう。
大企業と比較すると、ベンチャー企業や中小企業は資本面で劣ると考えられるため、「企業業績によって年収が左右されやすい」と判断されやすいと考えられます。
もしも審査において「年収が下がる可能性があるのではないか」と判断されてしまえば、マイナス材料が増えてしまいます。その懸念に対応するためには、実際の年収倍率や返済負担率を抑えた借入額とすることが有効です。
なお、住宅ローン審査における「年収」は、年収そのものの高さ(額)よりも、返済負担率の方が重要だとされます。
年収が高くとも、それに比例して物件価格が高ければ、返済不能となるリスクもまた高いと判断されやすいからです。
年収に応じた返済額となっているのかが重要ですので、年収に占める返済金の割合、いわゆる「返済負担率」に注意していきます。
返済負担率とは、年収に占める住宅ローンの年間返済額の割合のことで、返済負担率(%)=年間返済額÷年収×100」で算出できます。
フラット35の場合、返済負担率の上限は35%とされています(年収400万円以上の場合)が、現実的には返済金が35%に達すると家計が苦しくなる世帯が多いです。
世帯により差はありますが、返済負担率は25%以下を目指すといいでしょう。
返済の安定性を増すための方法
ベンチャー企業や中小企業の人に限りませんが、審査を通りやすくするなら返済の安定性を増していきます。具体的には、次のような方法があります。
- 購入物件の予算を見直し借入額を小さくする
- 頭金を増やす
これらの方法によって返済負担率の軽減が見込めます。
また「定年退職後も長く返済が続く」「完済年齢が80歳ギリギリ」といった場合は返済期間も見直します。
ただし、単に返済期間を短縮させると返済負担率が増えてしまうので、返済負担率とのバランスを取ることが重要です。
また、次にように、家族の協力が得られるかも検討します。
- 配偶者と協力して頭金や世帯収入を増やす
- ペアローンや親子リレーも検討する
- 親族から資金援助が得られるか確認する
総合的な住宅ローンの審査対策を
住宅ローンだけでなく、家計全体の健全性を上げることも重要です。
例えば返済負担率を算出する際は、住宅ローン以外の借入れが、それらも含めて計算します。
そのため、マイカーローンや家電ローンなどを事前に完済しておくのも住宅ローンの審査対策となります。
気になる人は、信用情報も確認しておくといいでしょう。
カードローンやクレジットカードの支払いに関して延滞してしまった場合は、信用情報に「延滞履歴」が残ります。
通常5年程度は履歴が残りますが、履歴があるうちは住宅ローン審査を通るのは難しいです。
クレジットカードでの分割払いや、携帯電話の割賦払いなどについて「そういえば口座残高が不足してしまったことがある気がする」といった心当たりのある方は、信用情報機関に問い合わせを行います。
まとめ 勤務先属性よりも、堅実な返済計画を立てよう
ベンチャー企業や中小企業の人は、勤務先属性が審査に及ぼす影響が気になるかもしれません。
しかし、住宅ローン審査では年齢や物件の担保価値、返済の安定性など総合的な評価がなされます。
勤務先属性は審査に影響する項目の一つではありますが、それにこだわりすぎず、無理のない返済計画を立てていくことが住宅ローン審査に通る第一歩となるでしょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所