(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
住宅ローンの10年固定金利は、ほかの期間固定型金利と比較して金利が低くなっているケースがあります。
金利がお得で、しかも10年間は「お得さ」が維持(固定)されるのは、メリットが大きいような気がします。
しかし10年固定金利は向いている人と、そうでない人に分かれます。10年固定金利の特徴や、向き・不向きについて詳しく解説します。
10年固定金利の仕組みは
住宅ローン金利は大きく分けると変動金利と全期間固定金利の2種類です。
ご存知の通り、変動金利は市場金利に合わせて金利が上下し、全期間固定金利は契約時の金利が完済まで変わらないタイプです。
「〇年固定型金利」は両者の中間に思えますが、ベースは変動金利となります。
基本は変動金利でありながら、当初定めた期間だけは金利が固定される、変動金利の「固定金利特約」なのです。
固定期間の設定は金融機関によります。
2年、3年、5年、7年、10年……など、多くの期間設定があるところもあれば、逆に「10年固定金利」のみを扱う金融機関もあります。
なかには期間固定型の取り扱いがない場合もあります。
期間固定型金利とは
期間固定型とは、 固定期間終了後は変動金利になる。
もしくは、固定期間終了後、再び固定期間特約を選択できます。
どちらを選ぶにせよ、特約期間が終了すると、その時点での新たな金利が設定されます。
10年固定金利のメリット
10年固定金利は、さまざまな期間設定がある「〇年固定金利」の中ではエース級の存在です。
そのため、ほかの「〇年固定金利」と比較して金利が特に低く設定されていることがあります。
その金利メリットが10年固定金利の最大の魅力でしょう。
加えて10年間金利が変わらなければ、返済がぐっと安定します。家を購入した後の、住宅ローン返済が不安な人にとって10年間の返済額が確定することは大きな安心材料です。
返済額が固定されることで、やっと購入に踏み切れる、といった人も多いでしょう。
実際に金利はどの程度なのか。10年固定金利の金利をいくつかご紹介します。
当初10年金利 | 10年後の金利 | 備考 | |
りそな銀行 | 0.645% | 1.655%引下げ | 当初型 |
三井住友銀行 | 1.10% | 1.4%引下げ | 最初にぐぐっと引き下げプラン |
イオン銀行 | 0.74% | 1.60%引下げ | 特別金利プラン |
住信SBIネット銀行 | 1.11% | 変動金利なら1.55%引下げ
固定金利なら(特約期間)1.30%引下げ |
各行HPより 筆者作成
変動金利ほどではありませんが、かなり低い金利水準といっていいでしょう。安定性で勝る、フラット35(全期間固定金利)の金利水準と比較してみます。
フッラト35 取り扱い金融機関で最も多い金利(2019年1月)
融資率 | 金利(最頻値) |
融資9割以下 | 1.330% |
融資9割超 | 1.770% |
フラット35と比較すると、10年固定金利のほうが金利は低いのがわかります。「金利変動のリスクは負いたくないけれど、金利も低いほうがいい」という人にとってちょうどいいのではないでしょうか。
10年後の金利は未知数ですが、10年間の猶予があれば、たとえ金利が上がるときにも収入アップや繰上げ返済資金の確保など、対策が取れる可能性が。
そのため「本当は変動金利がいいけれども、10年間は変動金利のリスクを負えない」人にとっても10年固定金利は喜ばれる金利設定でしょう。
10年固定金利のデメリット
10年間金利が固定され、かつ金利水準も高くない10年固定金利ですが、10年後のことを考えるとメリットばかりではありません。どういうことでしょうか?
固定金利期間終了後に返済額が大きく上がる可能性が
固定金利期間が終了後に金利がどのように見直されるのでしょう。
変動金利の場合は「その前の支払い額と比較し、新たな支払額が1.25%以上になってはいけない」と定められています。
これを俗に1.25倍ルールといいます。
変動金利と違い「〇年固定型」は、この1.25ルール適用外です。
10年経過後に金利が大きく上昇していると、返済額が大幅に増えるリスクがあるということです。
11年目以降の金利を決めるカギは
10年経過後は市場金利に合わせて金を決めますが、10年後の引き下げ幅が決まっているものが少なくありません。
金融機関には「店頭金」があります。
これはその金融機関の基準金利のようなものです。
この基準金利から「0.5%引下げ」「1%引下げ」「1.2%引下げ」などのように、引下げ幅が決まっていることが多いのです。
当初10年の金利を非常に安くし、10年経過後の引き下げ幅は小さい、といった金利商品も十分考えらます。
固定期間終了後にローンがどうなるのかまで考えて利用しましょう。
10年後に金利が倍になったらどうなる?
固定期間選択型のリスクを検証するために、金利上昇により返済額がどのくらい変わるのが確認してみます。
ここでは当初1%であった金利が固定期間終了後に2%になったと想定します。
【借入要件】
借入額:3000万円
返済期間:35年
金利選択:10年間固定金利
適用金利 | 年間返済額 | |
当初10年 | 1% | 101.6万円 |
10年経過後 | 2% | 114.3万円 |
毎月約1万円負担が増加することになります。
毎月1万円の増加を「大したことない」と思えるか、それとも「痛い出費増」と考えるかは人それぞれでしょう。
ただ、子育て世帯は要注意です。
10年後に教育費の負担によって家計が苦しくなると見込まれる世帯だからです。
そういった世帯ではこの負担増は命とりになるかもしれません。
10年固定金利が向いているのは
10年固定金利の向き・不向きを判断するは、現在の金銭感覚のみならず、10年後の家計でも返済増の負担を考えなければなりません。
とはいえ10年後の家計を予測するのは難しいでしょう。そこで10年固定が向いている人の具体例を挙げていきます。
【10年固定金利が向いている人(ファミリー世帯編)】
1. 子供が10年後には独立するので教育費の負担がなくなる
2. 学資保険や終身保険などによって10年後の教育費が準備されている
3. 育児休業中や子育て主婦の妻がフルタイム復帰(もしくは就業)するので世帯収入が増える
【10年固定金利が向いている人(子供の有無を問わず)】
4. 10年後に保険の満期金や退職金など住宅ローン返済に回すことができる資金)が入る
5. 現状でも家計に余裕があるが、金利が低いうちは貯蓄に回したい
6. 現状でも家計に余裕があるが、10年程度は住宅ローン控除の恩恵を目いっぱい受けたい(住宅ローン控除の恩恵をしっかり受けられる「借入額が大きい」「夫婦二人で住宅ローンを組んでいる」世帯がおすすめ)
1~3は子育て世帯ではありますが、教育費の負担が家計に悪影響を及ぼさない世帯です。
4~6は10年後に返済額が上がっても対応できる家計の世帯となります。
10年固定金利が向かない人は上記と正反対の世帯です。
現状ですでに返済がギリギリで、10年後に出費が増えると家計が回らなくなる可能性が高い世帯となります。
もしそういった世帯であれば10年固定は避けておくほうが無難です。
もしくは、10年後に返済額が増えても対応できるように家計を整えるか、返済額を圧縮するための繰り上げ返済資金をためていかなくてはなりません。
10年後に住宅ローンを見直す方法もある
10年後に金利が上がりそうな場合は、変動金利へ借り換える方法もあります。
新たな変動金利であれば、そのままでいるよりも金利が低いと推測されます。
ただし借り換えは手数料がかかりますし、金融機関を新たに選び、審査を受ける手間も発生します。
場合によっては審査に通らない可能性もあるので、過信は禁物です。
10年後にどうなるか、さまざまなケースを考えておいて
当初の金利にお得感があり、しかも10年間返済額が変わらない「安定感」も備えている10年固定金利。
頼もしい金利に思えますが、特約期間が終わる10年後にも注意を払いましょう。
金利がどうなるのか、返済額はどの程度変わるのか、もしものときは借り換えを検討するのか……いくつかのパターンを想定しておき、どんなときにも対応できるようにしておきたいです。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所