(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
30代は、多くの人が住宅購入を考える年代であり、住宅購入におけるメイン層です。
しかし、同じ30代でも、購入できる価格帯や住宅ローンの組み方は違ってきます。
30代の住宅購入、そして住宅ローンはどのような点に注意すればいいのでしょうか。
30代の住宅購入 特徴
住宅金融支援機構のフラット35利用者調査によると、30代の利用者が最多になっています。割合は次のように推移しています。
フラット35利用者の30代の割合
- 2007年 56.8%
- 2008年 48.9%
- 2009年 45.0%
- 2010年 52.5%
- 2011年 52.1%
- 2012年 48.8%
- 2013年 46.8%
- 2014年 44.3%
- 2015年 45.2%
- 2016年 44.5%
- 2017年 42.9%
以前より割合は減っていますが、主流の購入層であることは間違いありません。
厚生労働省の【平成28年度 人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」の概況】によると、結婚年齢の平均は初婚の場合、「夫・30.7歳」、「妻・29.0歳」とほぼ30代頭です。
同じく、第一子出産年齢も30代頭となっており、30代は結婚・出産など、家族のイベントが多発する時期であるといえます。
30代の住宅購入の注意点
結婚や出産が多く、住宅購入のメイン層である30代ですが、家計の状況は個々に異なります。
年代や家族構成が同じでも、購入できる家の価格は変わりますし、適した住宅ローンも変わってくることを覚えておきましょう。
同級生や職場の同期など、自分と近い人の住宅価格や借入額を聞いて、「自分も同じようにマイホームを買おう」と安易に考えないようにするということですね。
周りの意見に流されず、自分にとって適した「買い時」と「購入価格」で返済計画を考えていくべきです。
購入平均額から考える30代の住宅購入
住宅購入計画は各世帯が個別に考えなければなりませんが、ゼロから購入計画を立案するのは難しいです。
そこで、建売住宅とマンションの平均的な購入価格を参考に、返済事例をご紹介します。
【共通条件】
- 適用金利 1.8%
- ボーナス払いなし
- 全期間固定金利
- 夫婦の定年はともに65歳とする
建売住宅 物件価格3,300万円 モデルケース
- 家族構成 夫(36歳)妻(35歳)子供(3歳)
- 世帯収入 手取り550万円(夫400万円・妻150万円)
- 物件価格 3,300万円
- 借入額 2900万円(頭金400万円)
- 返済期間 35年(71歳終了)
毎月の返済額 | 93,116 円 |
年間返済額 | 約111.7万円 |
総支払額 | 約3,911万円 |
夫60歳時残高 | 約1,114万円 |
現状は「年収倍率5.2倍」、「返済負担率20%」と、借入額を抑えている印象です。
収入に対する住宅ローンの割合が低いため、教育費を支出していく余裕もありそうです。
ただし、返済終了年齢は71歳なので、定年前後の返済をどうするのかが問題となります。
住宅ローンの繰上返済に充ててもなお、老後資金が残る額の退職金が確実にもらえればいいですが、そうでない場合は対策が必要です。
子供の独立するのが22歳とすると19年後、夫55歳のときです。
教育費がかからなくなる55歳以降、繰上返済の費用を貯めていったとしても、60歳時点の残高は約1,114万円ですので、どこまで減らせるかは不透明です。おそらく65歳までに完済するのは厳しいでしょう。
できれば子供が小さいうちからコツコツと繰り上げ返済を行うのがおすすめです。
もしも子供をもう1人希望しているときは、妻の育児休業によって、一時的にせよ世帯収入の減少が見込まれます。
そのときは当初から返済期間を30年にする方法があります。
返済期間を30年にすると毎月の返済額は「104,312 円」に増えます。
毎月1万円以上の負担にはなりますが、この年収帯の世帯なら、返済していける額のはずです。
66歳が完済年齢ですので、1年分の繰上返済で完済できることになります。
【参考】
「年収倍率」住宅購入額が年収の何倍に相当するかを比率で表したもの。通常は4~6倍程度
「返済負担率」年収に対する年間返済金額の割合。返済金には住宅ローン以外も含んで計算
マンション 物件価格 4,350万円 モデルケース
- 家族構成 夫(39歳)妻(39歳・妊娠中)
- 世帯収入 手取り800万円(夫500万円・妻300万円)
※妻は子供1歳で職場復帰予定
- 物件価格 4,350万円
- 借入額 3,500万円(頭金850万円)
- 返済期間 30年(69歳終了)
毎月の返済額 | 125,894 円 |
年間返済額 | 約151万円 |
総支払額 | 約4,532万円 |
夫60歳時残高 | 約1,254万円 |
年齢が30代後半となっており、当初から返済期間を30年としています。
また、「年収倍率4.3倍」「返済負担率18.8%」と、先の例よりさらに堅実な借入額となっています。
しかし妻が妊娠中となっているため、妻の手取り収入を仮に6割180万円)として再計算します。
それでも年収倍率は5.1倍、返済負担率は22%と、返済金の占める割合はそう大きくはありません。
リスクを抑えた慎重な返済計画に思えますが、問題は教育費が定年間近まで継続することでしょう。
子供が大学を卒業するのは、おそらく夫が61~62歳のときです。同じ30代でも、前述のケースでは50代で教育費の支出が終わるため、返済計画が大きく異なります。
子供の独立後も、教育費として支出していた額をそのまま繰上返済にスライドさせれば、定年時に残額はかなり少なくなるはずです。
ただし、浪人や大学院への進学などで子供が独立する年齢が遅くなると繰上返済に資金が回せず、住宅ローンが定年後も一定額残ってしまいます。子供の独立時期が遅くなる場合に備え、早い段階で繰上返済をしておくか、繰上返済用の資金をしっかり貯蓄しておきたいです。
※物件価格や借入額は「2017年度フラット35利用者調査」を参考に、筆者がモデルケースを作成
高価格マンションの購入者は30代が多い?
先ほどのモデルケースでは、購入額は3,000~4,000万円台でしたが、ここ1~2年、都心を中心に高額マンションが好調なのをご存じでしょうか。
6,000万円以上、立地によっては億に手が届くほどの価格帯の高額マンションが売れているのです。
購入をけん引しているのがパワーカップルと呼ばれる共働き世帯です。
パワーカップルとは共働きの夫婦で、年収はともに700万円超、子供は0~1人の世帯とされており、高い購買力を持ちます。フルタイムでしっかり働き、勤労に見合った賃金を得ることができるパワーカップル。
資金力はあるが時間は足りないのが特徴で、人気エリアの駅近物件を購入しているのです。
実は、パワーカップルは30代が最多で、次いで50代が多いといいます。40代でパワーカップルが減少する理由として、妻の収入減があるようです。30代のうちはフルタイムでしっかり稼いでいた妻が、40代は出産や子育てで仕事をセーブする例が多いのです。
稼ぐ力ある夫婦が、立地や環境にこだわった「いいモノ」を購入するのは自然なことでしょう。
世帯年収からいえば、無理な住宅購入でもありません。しかし、今後は一時的に世帯の「稼ぐ力」が落ちることも想定しておくといいですね。
成功する住宅購入とは
モデルケースの2例は、世帯年収は決して低くなく、教育費の増加・妻の収入減が起こっても、在職中の返済に問題はない事例でした。
しかしご自身の家計を見通し、もし教育費との両立が難しいと感じた場合は、購入価格を見直すか、子供が幼いうちに教育費を積み立てておかなければなりません。
完済するためにはどうするのか、定年後まで見据えた返済計画が必要です。
教育費との両立で注意したいのは、頭金の金額です。
多くの家庭で子供の教育費がピークになる時期は家計が赤字になります。
教育費のピークは子供の数や年齢差によって変わりますが、大体数年続きます。この赤字の時期に、マイナスを補てんするだけの蓄えがなくては家計が破綻してしまいます。
欲しい住宅を買うために預貯金を放出しすぎないようにしてください。
また、返済の余裕がない場合には金利の低い変動金利を選択してしまいがちです。
しかし、ギリギリの返済をしている中で金利が上昇すると、一気に家計が回らなくなる可能性があります。余裕のないときほど固定金利を選択したいものです。
まとめ 自分にとっての買い時と適正価格を意識しよう
30代は一般的に住宅購入に適した時期だとされます。勢いは重要ですが、周りに流れさて身の丈以上の物件を購入してしまうとあとで後悔するかもしれません。
本当の買い時や購入に適した金額は人によって違います。
返済計画を立て、完済まで見据えたうえで購入時期と価格を決めると安心です。
返済期間が長いからこそ、完済までのプランをしっかり考えておきましょう。

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所