(構成・文=横山 晴美/ファイナンシャルプランナー)
フラット35Sとはフラット35のうち当初5年から10年の間、金利が引き下げられる住宅ローンです。
金利上昇のリスクがない全期間固定金利の住宅ローンは、変動金利よりも金利が高い傾向にあるのがデメリットですので、金利が引き下げられるとデメリットが減じます。
フラット35Sはフラット35をベースとした住宅ローンであり、その性質を理解するにはフラット35をよく確認することが必要です。
フラット35とフラット35Sについて、金利や適用条件の違いを紹介します。
金利優遇があるフラット35S ベースはフラット35
全期間固定金利の住宅ローンであるフラット35において、所定の条件を満たした場合に一定の金利引き下げが受けられるのが「フラット35S」です。
金融機関の審査により「フラット35」の金利が決定すると、その金利から一定期間「0.25%」の金利引き下げを受けられるようになります。
フラット35Sを理解するためにも、フラット35の仕組みと特徴を確認していきます。
フラット35の仕組み
本来、民間金融機関にとっては全期間固定の住宅ローンを提供することは簡単ではありません。金融機関にとって住宅ローンの金利は収益にあたるからです。
全期間固定金利の住宅ローンにおいて金利が上昇した場合、金利上昇分は金融機関が負担しなければならず、収益を得られないリスクがあります。
市場金利に応じて住宅ローンの金利も上昇する変動金利の方が、金融機関にとって安全な住宅ローンだといえます。
そのような理由で、35年もの長期間の固定金利を商品として販売するのは難しいのですが、フラット35は住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して提供しています。
民間金融機関は窓口であり、金利上昇リスクも独立行政法人である住宅金融支援機構が引き受けます。
金融機関が金利上昇のリスクを引き受けずに全期間固定金利を提供できる仕組みがフラット35なのです。
フラット35の特徴
住宅ローン審査では年収や勤続年数などの、人的要件も問われますが、フラット35の場合は一定の品質を保った住宅が対象となるため、住宅要件の方が厳しい傾向にあります。フラット35の主な特徴と住宅要件は次のとおりです。
返済期間
- 原則15年以上35年以下
- ただし本人または連帯債務者が60歳以上の場合10~14年で借入申込み可能
保証人
- 不要
繰上返済
- 手数料不要
- インターネットによって借入金残高照会や一部繰上返済の申込みが可能な「住・My Note(すまい のーと)」利用の場合は10万円以上から、金融機関の窓口から行う場合は100万円以上から
団体信用生命保険
- 金利に含まれる
住宅要件
- 一戸出てであれば70平方メートル以上、マンションであれば30平方メートル以上の面積要件
- 耐火構造、準耐火構造または耐久性基準なども適合しなければならない
- 住宅要件については原則として第三者機関による検査を受けることで、フラット35の基準を満たしている旨の「適合証明書」を取得する
なお、中古物件でもフラット35は利用可能です。その場合も「適合証明書」が必要で、築年数や劣化状況なども検査されます。
借入方法
- 既述の通り、民間金融機関が窓口。審査や金利は民間金融機関が行う
- 債務者一人で借入することも当然できるが、夫婦で収入を収入合算することも可能
- 夫婦で収入を合算する場合の収入合算者は連帯債務者となる。連帯債務者は負担割合に応じて住宅ローン控除の適用も受けることができる
フラット35とフラット35Sの違い
フラット35Sはフラット35がベースの住宅ローンですので、基本的な部分は同じです。
ただし、金利優遇を受けるために、先に紹介した「住宅要件」がさらに厳しくなっています。
フラット35Sの住宅要件と、要件を満たした場合に優遇される金利を紹介します。
フラット35S 適用要件の概要
フラット35Sは次のような基準を満たした、質の高い住宅を購入するときに適用可能です。
- 省エネルギー性
- バリアフリー性
- 耐震性
- 耐久性・可変性
一般的に、住宅の基準としては建築基準法があります。
フラット35は建築基準法よりも省エネルギー性やバリアフリー性などの住宅性能が1つグレードアップした住宅、「フラット35S(金利プランB)」はフラット35よりもさらに上位グレードの住宅で、最上位が「フラット35S(金利プランA)」の住宅だと考えるといいでしょう。
【参考:フラット35グレードイメージ】
ベースグレード | 建築基準法 |
グレード1 | フラット35 |
グレード2 | フラット35S 金利プランB |
グレード3 | フラット35S 金利プランA |
※数字が大きいほど高グレード
上記の通り、フラット35Sには金利Aと金利Bがあります。
金利引き下げ幅は、どちらも同じ「マイナス0.25%」ですが、引き下げ期間が異なります。
- 金利A 当初10年間
- 金利B 当初5年間
引き下げ期間が異なるため、適用基準も金利プランAの方が厳しいです。
続いて、金利AプランとBプラン、それそれの具体的な基準も見てみます。
【フラット35】S 金利Aプラン(当初10年間金利引下げ)の基準
フラット35S(金利プランA)では、では次の(1)から(4)までのうち、いずれか1つ以上の基準を満たす住宅であることが要件です。
1.省エネルギー性
一次エネルギー消費量等級5の住宅(認定低炭素住宅および性能向上計画認定住宅を含む)
2.耐震性
耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)3の住宅
3.バリアフリー性
高齢者等配慮対策等級4以上の住宅(共同建て住宅の専用部分は等級3でも可)
4.耐久性・可変性
長期優良住宅
【フラット35】S 金利Bプラン(当初5年間金利引下げ)の基準
フラット35S(金利プランB)では次の(1)から(4)までのうち、いずれか1つ以上の基準を満たす住宅であることが要件です。
1.省エネルギー性
断熱等性能等級4の住宅で、かつ、一次エネルギー消費量等級4以上の住宅。もしくは、建築物エネルギー消費性能基準を満たす住宅
2.耐震性
耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上の住宅。もしくは、免震建築物
3.バリアフリー性
高齢者等配慮対策等級3以上の住宅
4.耐久性・可変性
劣化対策等級3の住宅で、かつ、維持管理対策等級2以上の住宅。ただし、共同建て住宅などについては、一定の更新対策が必要
購入を希望する住宅がフラット35Sの基準を満たさない場合もあるでしょう。
しかしフラット35Sの基準は高く、性質の高い住宅は、住宅価格も高い傾向です。
購入住宅のグレードを上げるかどうかは慎重に判断します。
「性能いい住宅が欲しいけれども、予算がギリギリで不安」といったケースでフラット35Sの適用を受けるのが一番の活用法でしょう。
フラット35とフラット35S 返済額の違い
フラット35Sの適用を受けることで、住宅ローン返済額はどの程度変わってくるのでしょう。下記の条件で試算します。
【試算条件】
- 借入額3,000万円(融資率9割以下)
- 借入期間30年
- 元利均等返済、ボーナス返済なし
- 借入金利年1.06%の場合
住宅ローン種類 | 金利と毎月返済額 | 総返済額 | 差額 | |
フラット35 | 1.2% 毎月返済額 約9.8万円 | 3,504万円 | ― | |
フラット35A 金利タイプA | 当初10年間 0.81% 毎月返済額 約9.4万円 | 10年以降1.06% 毎月返済額 約9.7万円 | 3,436万円 | フラット35と比較してマイナス68万円 |
フラット35S 金利タイプB | 当初5年間 0.81% 毎月返済額 約9.4万円 | 10年以降1.06% 毎月返済額 約9.7万円 | 3,467万円 | フラット35と比較してマイナス38万円 |
フラット35Sのお得度は、返済期間や借入額によっても変わりますが、悩んでいる人は上記を参考にしてください。
フラット35のバリエーション
フラット35には様々なバリエーションがあります。
またそのバリエーションの多くは、フラット35sの適用が可能です。
フラット35Sと併用できるフラット35のバリエーションを紹介します。
フラット20
- 借入期間が20年以下の全期間固定住宅ローン
- 20年以上のフラット35よりも金利が低い傾向
- フラット35Sも適用可能
フラット50
- 最長50年の全期間固定金利住宅ローン
- 長期優良住宅を取得する場合に利用可能
- フラット35Sも適用可能
- 取り扱いのない金融機関もある
ダブルフラット
- 「フラット20とフラット35」、「フラット35とフラット35」、「フラット20とフラット20」などの組み合わせでフラット35を利用できる
- フラット35Sも適用可能
ダブルフラットは同じ返済期間のフラット35(もしくはフラット20)を2本利用することも可能ですが、一般的には「フラット20とフラット35」を組み合わせることが多いです。
子どもの教育費が増える前や定年前にフラット20を完済し、それ以後は返済額を抑える、などのように活用します。
まとめ フラット35Sの要件を知っておこう
フラット35Sは全期間固定金利の住宅ローンでありながら、金利引き下げができる住宅ローンです。
「全期間固定金利は魅力だけど、金利がもう少しだけ低くなると助かる」「質のいい住宅を少しでもお得に購入したい」といった場合に有効です。
これらのニーズがある人は、積極的に利用を検討してみましょう。
参考【住宅ローンの選び方】初心者でも迷わないための比較ポイントと必須知識を解説!

ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信にも力を入れている。»ライフプラン応援事務所